児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

パレスチナのちいさないとなみ

 

『瓶に入れた手紙』でわからなかったことが、いろいろ本当によくわかります。

パレスチナ人」というひとくくりではなく、1人ひとり顔があって、名前があって、仕事と暮らしがあって、生きている、ということが、高橋美香さんの写真と文章で前半に、後半は、パレスチナ地域の人たち(アラブ人もユダヤ人も)とフェアトレードで共に仕事をする皆川万葉さんの文章で。

笑顔の写真が多いのは、写真家が何度も現地に通い、そういう関係をつくっているからで、後半を読みすすめていくと、とても笑って受け止められないパレスチナの仕事環境の過酷さ、人権が踏みにじられている現実が、突きつけられます。それでも笑い飛ばす人の言葉には、何と言っていいのか。

イスラエル軍はいまや、外出禁止令を出さなくても、いつでもやってきて逮捕や暗殺ができるから、外出禁止令の必要がないんだよ。ハッハッハー」「日本は地震が多いね。パレスチナは戦争が多いよ。ハハハ」

さらに、パレスチナの歴史や、複雑な背景を解くQ&Aでは、「オスロ合意」の問題点や、「パレスチナ自治政府」に対する民衆の”冷ややかな”視線、日本政府に対する厳しい言葉――支援には感謝しているが「お金がほしいわけじゃない」「きちんと批判をしてほしい」。ここには、皆川さんが指摘する沖縄の人と米軍基地、福島の人と原発事故の問題のほか、核兵器禁止条約に対する態度も思い当たります。

日本にいるわたしとして、できることをしたいと考えました。 (は)

瓶に入れた手紙

 

イスラエルエルサレムに暮らすタルは17歳。ある日、ガザ地区の兵役に就く兄に、手紙を入れた瓶を託す。パレスチナの知らない少女と、憎しみ以外の言葉で語り合いたいという願いをこめて。

ところが、瓶を拾ったのは20歳の”ガザマン”で、その返事は悪態やからかいの言葉で埋め尽くされていた。でもタルはあきらめずにメールを書き、語りかけ続ける。それは、タル自身の抱えきれない不安や恐怖を、頭の中から追い出すためでもあったから。

やがて心を開き始めた”ガサマン”は、ナイームという名であることを明かす。そんな矢先、エルサレムでまた自爆テロがあり、その現場を目撃したタルは、ショック状態に陥ってしまう。

以前ナイームが、「疲れた」と書いてきた気持ちを初めて知ったタル。一方、彼女を心配するナイームには、国際的なカウンセラー・チームのメンバーとの出会いがあり、”幸せ”を感じられる気力を取り戻しつつあった。

ある日、「君への最後の手紙だ」と切り出したナイームのメールに書かれた決意とは。

イスラエルには男女ともに兵役の義務があり(作者自身も従事した)、タルも18歳になると兵役に就く。その後2人は対面を果たしたのか、そもそもナイームの夢は叶ったのか、読者の想像にゆだねられる。

書くこと、考えることをやめない、あきらめない2人の姿は、希望でもあり、また本文の訳注や関連年表に「圧倒的」と表現されるイスラエルの「武力」や「勝利」という文字は、絶望が続くようにも思えました。 (は)

ヴィンセントさんのしごと

 

ヴィンセントさんは、毎朝7時に起きて仕事へ出かけます。ヴィンセント事務所に着くと、郵便受けには、世界中の子どもたちからの手紙。ヴィンセントさんは、1つ1つ開いて読み、「今日はこの手紙にしましょう」と決めました。

「ゆきで あそびたいです。 みなみのしま トント」。

髪を七三に分け、鼻の下にちょび髭を生やし、まじめに穏やかに日々を送っていそうなヴィンセントさんは、この後、大きな大きな扇風機をしょって、雲に届くほどのはしごをのぼり、高い山の上に雪を降らせている雲を南の島まで吹き飛ばし、トントの願いを叶えるのです。そしてまた、大したことでもなかったように家に帰り、9時にベッドに入って1日を終えます。

ちょっとシュールな雰囲気。 (は)

あさいち

 

今年の元日に起こった能登半島地震で焼失してしまった、輪島朝市を取材した1980年の作品。復興支援のため復刊された。

早朝の暗いうちから、自慢の品物をかついだり荷車に乗せたりして、売り子のおばあさんたちが集まってくる。方言の会話、売り声が文章になっています。

魚介、野菜、きのこ、花、干し柿がずらりと並ぶ、厳冬の朝市。海の色、空の色。しっかりほおかむりして着こんだ人たちは、どこかほかの雪深い国の風俗にも似て。 (は)

はじめましてのダンネバード

 

2学期が始まって1週間。4年3組の蒼太のクラスに、転校生がやってきた。エリサ・ビソカルマ。顔も髪も茶色、黒目の大きなネパールの女の子だ。

エリサは、蒼太の隣の席になったが、日本語がわからないようで、クラスになじもうとしないし、「家の都合」で休むことも多い。

そんな中、2学期の行事の1つ「弟子入り体験」で、蒼太は幼なじみのゆうりと一緒に「モモ」というレストランへ行くことに。事前の挨拶に行くと、そこはなんと、エリサのお父さんがやっているネパール料理の店だった。

慣れたようすでお客さんに対応するエリサ。ネパールのことを教えてもらった蒼太は、エリサともっと仲良くなりたいと思う。そして学級会で、誰かの失敗を笑わないクラスにしようと話し合う。

やがて迎えた公開授業。久しぶりに登校したエリサと一緒に、弟子入り体験の発表をやりきった蒼太は、勇気を出してエリサに言った。「ダンネバード」。するとエリサはにっこりして、「ダンネバード(ありがとう)」とネパール語で返してくれたのだった。

日本で増えている外国人労働者の生活や、言葉や文化の違いを知り、同じ人としてコミュニケーションすることの大切さを織りこみました。 (は)

あたしって、しあわせ!

 

ドゥンネは、夜ねむれないとき、ひつじを数えるかわりに、「あたしって、しあわせ!」と感じたときのことを思い出すことにしています。

通学用リュックを買ってもらって、1年生になるのがとても楽しみだったこと。

初めて友だちになったエッラとの、楽しい休み時間や給食の時間。うちでお泊まり会もしたし、時々けんかをしてもすぐ仲直り。エッラといるといつもしあわせです。

ところが、そんなエッラが遠くの町へ引っ越してしまって。ドゥンネは、悲しくて泣きました。ママが病気で「とおくへいってしまった」ときのことも思い出しました。ドゥンネはもう、ちっともしあわせではありません。

そんなある日、エッラから手紙が届きます。「ふっかつさいのお休みに、あそびにこない?」そう、いま思い出しているのは、ドゥンネにとって、一番しあわせなこと。しあわせすぎて眠れないくらい。明日はいよいよ、エッラのところへ遊びに行くのです!

ドゥンネが思い浮かべる、学校や家でのさまざまなしあわせとふしあわせは、低学年くらいの子が共感をもって読むでしょう。 (は)

毎日がつまらない君へ

 

フォトジャーナリストの著者が、40か国以上を取材した経験を短くつづった7編。

貧しさや災害、民族紛争、環境破壊など、困難や不便さの中で生き、暮らす人々との「宝物」のような出会い。岩手・陸前高田津波で妻を亡くした、著者自身の父親が流した涙への思いを書いたものも。

「学校がもっとすきになるシリーズ」の高学年以上向けで、道徳の副読本といった内容。朝読書にも向くのでしょう。 (は)