児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

子どもと子どもの本に捧げた生涯

 

子どもと子どもの本に捧げた生涯―講演録 瀬田貞二先生について

子どもと子どもの本に捧げた生涯―講演録 瀬田貞二先生について

 

 講演録が元になっているが、児童書の編集・評論・翻訳など黒子の仕事に徹した瀬田氏の稀有な業績を評価した本。博学で、感性豊かだが「むなしいこと」を拒否して、合理的な思考ができる稀有な人格が、斉藤氏の深い思慕の中で浮かび上がってくる。子どものための仕事として、バランスがとれたこの人格が、どんなに貢献したかが伝わってくる。

ハーブをたのしむ絵本

 

ハーブをたのしむ絵本

ハーブをたのしむ絵本

 

 「絵本」とあるが、図解という雰囲気。内容は、ハーブの利用のほうに重点があるようだが、中学生位からもしくは大人と一緒でないと作れないレベル(例:花びらを卵白を塗って砂糖漬けにするなど、花びらのイラストだけでは、大人が見ても具体的なやり方が見当がつかない。育て方を知りたくて見たが、ざっくりしているので、これを見ただけで栽培できるのか不安になった。見て雰囲気を楽しむことはできるがそれ以上はちょっとどうかとおもわれた。だから「絵本」なのか?

わたしたちが自由になるまえ

 

わたしたちが自由になるまえ

わたしたちが自由になるまえ

 

 憲法記念日です。人権が失われていた国を舞台にした作品を紹介しましょう。

ドミニカ共和国の独裁者打倒の歴史を描いた作品。アニータは、もうすぐ12歳。少し前まで、広い敷地に祖父母や叔父叔母など一族が一緒に住んでいたけれど、少しづつアメリカに行ってしまい、徐々にさびしくなってきた。アニータが住むドミニカは、ボスが支配しているが、ボスがどんなにすばらしいかをいつも教えられてきた。だけど、最近なにかがおかしいことに気付いてきた。お父さんやおじさんは、ボスに対抗しようとしているらしい。秘密警察の捜索があり、一家をまもるためアメリカ大使館の家族が隣家に引っ越してきてかばってくれるようになった。だが、大使のパーティーにボスがやってきて、姉のルシンダに目を付けた。無理に愛人にされるのを避けるため、ルシンダも急いでアメリカに逃げることになる。ついにボスを倒す時がきたが、味方になるはずの将軍が態度を翻したため、父と叔父は逮捕され、アニータたちは大使館のクローゼットに隠れて暮らすことになる。大弾圧がはじまり、街を戦車が走る。父たちの消息は不明。だが、アニータと母は、アメリカとイタリア大使館の連携プレイで、ヘリコプターで脱出。アメリカへの亡命を果たすが、父たちは処刑されてしまったことを知る。作者は、子ども時代にアメリカに亡命し、叔父の処刑を経験している。混乱の中でも、パーティに心をときめかしたり、男の子に恋をしたりと思春期の日常があるようすがいい。大人でもドミニカの歴史は知らないが(私は知らなかった)、独裁国家の中で暮らす普通の女の子の姿として読むことができるところはいい。

こんや、妖怪がやってくる

 

こんや、妖怪がやってくる――中国のむかしばなし

こんや、妖怪がやってくる――中国のむかしばなし

 

 なんでも手当たり次第に食べてしまう、恐ろしい妖怪。おばあさんは、大切にしていた子牛を食べられてしまい、次にはお前を食べる、といわれてしまいました。おばあさんが「こんや、妖怪がやってくる」と助けを求めて歩いていると、助太刀に名乗り出たのは、卵にぞうきん、かえるにこんぼう火ばさみ、牛のふんに重いローラー。この後の展開は、登場人物こそ違え、猿蟹合戦のよう。一つ一つでは強くないものが、恐ろしい妖怪をやっつけるのが魅力。

アラスカを追いかけて

 

アラスカを追いかけて (STAMP BOOKS)

アラスカを追いかけて (STAMP BOOKS)

 

 読書好きで友人がいなかったマイルズは、寄宿学校に転校して新生活を始める。同じ部屋の“大佐”は、母子家庭だが奨学金で入学した、頭がいい皮肉屋だ。そしてアラスカがあらわれる。気分野だが次々といろいろなことを思いつく魅力的な女の子だ。もちろん、ラブラブな彼氏がいるが、マイルズにもラーラという女の子を紹介してくれる。時に激しく落ち込むアラスカ、彼女は9歳の時に母親を目の前で亡くしていた。恐怖のあまり、とっさに救急車も呼べなかった激しい悔い。そしてある日、アラスカは、とつぜんあわてたように寮を飛び出し、自殺のようにパトカーに突っ込む事故で死んでしまう。アラスカはなぜ死んでしまったのか? 自殺だったのか? 突然の死を受け止めきれないまま、大佐とマイルズは調査をはじめ、真相にたどり着く。酒を飲み、タバコを吸うけど、勉強も一所懸命という、健全な若者たち! 内気だけど繊細な主人公が、天才気質でエキセントリックな異性(もしくは友人)にふりまわされるというのは、青春小説の定石だけど、素直に切なく響いてくるのは、作者の才能かも。

わかったさんのアイスクリーム

 

 こちらも永井郁子のかわいい挿絵と、おかしのレシピで人気のシリーズ。冒頭でわかったさんはクリーニング屋であり、「わかったわかった」が口癖なので「わかったさん」とよばれていることがきちんと描いてある。幼年文学の基本は、さすがに押さえてある寺村氏、物語に入っていきやすい。展開はナンセンス、この物語でいうと冷蔵庫の街などのイメージは面白いが、イメージ先行で物語展開は、ナンセンスとしても今一つ! ルルララよりはいいけれど・・・・です。

ルルとララのいちごのデザート

 

 人気があるが、きちんと読んでいなかったので、時間をとって読んでみた。シリーズ1巻ではないせいか、ルルとララが何者で、どうして二人がお店をやっているのかわからない。何の店なのかも4ページのイラストでやっとわかる。文字だけ読んだらわからないだろう。「食用色素」などの言葉がでてきたりと、文章もさほど小さい子向けではない。著者がかわいい挿絵を描いているので、その挿絵と、甘いものに惹かれて借りていく感じ。ただ、レシピがいくつもでてくるが、あまり難しくない(この本でも、ケーキは難しくて焼けないので、ビスケットを割って作ったタルトの土台にいちごプリンを入れてケーキにしている。)のは、子どもにとってうれしい配慮で、ルルとララを身近に感じさせるのだろう。ワンセット購入対応でよいと再確認。