児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

本だらけの家でくらしたら

 

本だらけの家でくらしたら

本だらけの家でくらしたら

 

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ系のドタバタファンタジー。作者が作品の中で、ときどきしゃべりかけてきたり、主人公が読書家にしか部屋を貸さないおばあさんの家で、本を読んでいないとわからないテストをだされるところなど、本好きをくすぐる感じ。主人公ファーンは、赤ん坊の時に取り違えられて、お堅い会計士の両親のもとで育つが、本からコオロギをだしたり、変身するコウモリをみたり、怪しげな雲をみたりと、ふつうでは見えないもの見て育つ。ある日、本当の父親が迎えに来て、ファーンが〈ダレデニアン〉の血筋で、死んだ母親の持っていた『〈ダレデニアン〉になる方法』という本をさがせるのは、ファーンだけだという。かつては父ボーンの親友だったが、恋敵になってから敵となったマイザーも同じ本を狙っている。母親の実家に、おばあちゃんの家に、他人のふりをして父子で乗り込むとマイザーもまた変身してやってきていた。本だらけで、本のテストを次々繰り出すおばあちゃんとの丁々発止のやりとりは、ちょっと楽しい。そしてハッピーエンドでしめくくる、ちょっと気楽な娯楽作品。 

ネコ横丁

 

ネコ横丁 (世界の傑作絵本C)

ネコ横丁 (世界の傑作絵本C)

 

 スカイハウスに引っ越してきたばかりのラウラとラッセ。家から見下ろすと猫がいる横丁があった。猫を探しに飛び出したラッセを追って、ラウラも横丁に飛び込むが、天井をあるける不思議な靴を売る靴屋などおもしろいお店があったり、元船長の家のデッキに上がればそこには大海原が!! どこまでおいかけてもラッセは見つからないが、最後は先に家に帰っていた。あっというまに友達ができた二人の一日。不思議な世界を何とも魅力的に描くオルセン。地味だけど鮮やか!

浮き橋のそばのタンムー

 

浮き橋のそばのタンムー (ポプラせかいの文学)

浮き橋のそばのタンムー (ポプラせかいの文学)

 

 タンムーは10歳の男の子。名前の由来は、なんとお母さんが「トムは真夜中の庭で」を読んだせいで、中国語だとトムは「タンムー」なのだ。ある日、過保護なお母さんが両親の留守中にどこにもいかないように閉じ込めたことに起こったタンムーは、窓から出て、塀をつたって冒険に出る。偶然見つけたあいている窓から入って、宿題を直すいたずらをして楽しんだ後「タンムーを夏休み前に殺せ」という相談を聞いてしまった。夏休みまではあと3週間。しかも、タンムーが他の人に話せば、その人も危なくなるといっていたので、誰にも話せない。タンムーの父親は、弁護士で、その事件の関係で危険な場合があるかもとあらかじめきかされていた。父の事件の関係なのか? ひょっとするとあと3週間の命?という緊張の中で、タンムーは気づくといつもとは違う行動をとっていた。ふだんならしないようなことも思い切ってしたり、むちゃな喧嘩をしたり。物語は、実は「タンムーを殺せ」というのは劇の練習だったというオチにはなるが、いたずらだけどまじめなタンムーの素直な心の揺らぎがいい感じ。ナルニアやハリポタも読んでいるタンムー。喧嘩をよしとしない先生など、中国のイメージがちょっと変わる。すぐ隣のまちの男の子のような親しみを感じられるのが、文学の力かも。

月はぼくらの宇宙港(2017 中学生 課題図書)

 

月はぼくらの宇宙港

月はぼくらの宇宙港

 

 そこそこ長く、内容もしっかりしているだけにちょっと読書力のある子向け。これで感想文を書くとすると、科学研究の未来の可能性への希望とかとからめるか? これまた大変かも。ただ、中に実験(実際にやれるもの)が多く入っていて、特にゴムの温度変化を唇で感じる実験などは、簡単にやれてすぐ結果を確認でき、とてもおもしろかったので、そういうところから入る、もしくは感想文ではなく自由研究に発展させるほうがいいかもしれない。著者は、JAXSA月探査「かぐや」プロジェクトの地形地質カメラグループ共同研究員だったという経歴であり、月の研究についての最先端情報や、今後の研究の可能性をきちんと紹介してくれている。宇宙で働くベースになっているのが、日本のさまざまな仕事がきちんと行われていることにあることを述べたまとめもよい。それをネタにして書くか・・・、大変そうですね。

 

円周率の謎を追う 江戸の天才数学者関孝和の挑戦(2017 中学生向き 課題図書)

 

円周率の謎を追う 江戸の天才数学者・関孝和の挑戦

円周率の謎を追う 江戸の天才数学者・関孝和の挑戦

 

関孝和和算。という言葉は知っていてもそもそも和算ってなあに? 数学に国境があるの? とよく考えるとわからない。そもそも関孝和の生涯は、公式記録(いつ生まれて、結婚して、何の業務をしたか?)しかわからないので、この物語の孝和のキャラは創造のようだ。物語化したのは中学生の親しみを誘うため? 数学の先生に当たる柴村氏の娘香奈へのあこがれがでてくるが、この初恋は実らない。この香奈は、一貫して算術に興味をもったキャラとして描かれているので、どうせ創作なら、いっそ彼女を主役にして作品つくってくれればおもしろかったのに、とも思った。数学はただの趣味(結果的に、その能力の一部は業務にも役に立ったが)、という関は、オタクだったかも。武道や論語は苦手、つまり運動も勉強もイマイチだけどゲームならバッチリ的なキャラ。ゲームに夢中になって成績が下がるならゲームとりあげるよ、とさんざん叱られているが、ラッキーなことに一芸入試で頭角を現す。と解釈すれば、感想文は書きやすいかも。円周率を機械的に使うのではなく、どういう根拠で円周率が求めることができるか、を追求した関の偉大さはわかるが、関の業績を理解するのは「西洋の誰々よりも早かった」でまとめることだろうか? 早くないとしても、独自に何かを考え詰めることが重要に思える。また、関を理解するには彼がみつけた和算の理解が必要であると思う。傍書方は方程式に置き換えて納得しやすいが、加速法はわからないんですが、せめて注をつけてほしかった。中学生にはわからなくていいのかもしれないけど、数学少年ならせまってみたいのでは? とまぁ、文系の子にはややとっつきにくいけど、伝記であるかのようなタイトルは親心をくすぐるので、借りられそうな気はする。

ちなみにさっそくリクエストが入っていますが、リクエストしているのは、ほぼおじさんです。 キイワードは、円周率?

ぼくたちのリアル(2017 小学校高学年 課題図書)

 

ぼくたちのリアル

ぼくたちのリアル

 

 頭がよくて運動神経抜群、見た目もかっこいい上に、性格は明るくさわやかでおちゃめな璃在(リアル)。璃在がいると、クラスはパッと明るくなる。でも僕、飛鳥井渡はちょっと苦手。家が隣同士で幼馴染だけど、差がありすぎて気後れする。だけど、5年生になって初めて同じクラスになってしまった。そしてやってきた転校生川上サジ。女の子も真っ青な美形でだが、サジが間に入ってくれたおかげで渡はリアルへのこだわりを少しづつ無くしていく。そして完璧なリアルが抱えている暗い過去。リアルのここまでいいやつがいるのか? という良さが嫌味なく書かれていて読んでしまう。それができるのは渡というちょっと屈折してリアルを見ている視点があるせいだろう。新人で、これだけ描いたってスゴイが、強いていうとこれで小学校5年生か?だよね。中学一年位の設定でも、全然いけそう。感想文として書くとしたら、リアルみたいな子がクラスにいたら、とするか、渡に自分を重ねるか? というのが王道かもね。

転んでも、大丈夫 僕が義足を作る理由(2017 小学校高学年 課題図書)

 

転んでも、大丈夫: ぼくが義足を作る理由 (ポプラ社ノンフィクション)

転んでも、大丈夫: ぼくが義足を作る理由 (ポプラ社ノンフィクション)

 

「義足でかがやく」

 

義足でかがやく (世の中への扉)

義足でかがやく (世の中への扉)

 

 はこの著者をモデルにしたノンフィクションだったがこんどは本人が書いたもの。実際の義足の作り方のようすの図解。義足で活躍する人の写真、臼井さんに義足を作ってもらうことで活躍したアスリートたちの声もはさんで仕上げてある。だが、ちょっと気になったのは臼井氏の身を削るような努力。朝の7時半から夜の9時まで、オリンピック前は休みなしで働いて疲労による貧血で駅で倒れて、でも翌日も出勤したって、おかしくない? もっとつらい人のために頑張りたいはわかるけど、過労死するんじゃないの??? これを感想文でどうかくのだろう。私もこんなふうに頑張って人の役に立ちたいとかかくのだろうか? 本人自身が書いているせいか客観的な義足づくりにかかわってきた歩みより、自分の思いが前面に出てきていることがこうした「ぼくは絶対やる!」的なムードになっているのかもしれない。長く、自分のやりたいことも見つけられなかったのに、打ち込めるものを見つけ、懸命に仕事をしているというのは、感想文ネタとしては書きやすいのかもしれないし、懸命だが選手に押し付けない姿勢も素晴らしいものの、やっぱり個人的には滅私奉公的なことへの抵抗感がのこりました。