児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

兵士になったクマ ヴォイテク

 

兵士になったクマ ヴォイテク

兵士になったクマ ヴォイテク

 

 兵士として登録されたクマの実話をもとにした物語。ポーランド出身のピョートルやスタニスワフは、祖国をドイツとソ連に引き裂かれる。自国を取り戻す戦いとして連合軍に加わった彼らは、シリアからイタリアに侵攻する途中で、一等のこぐまを買うことになる。ヴォイテクと呼ばれたこぐまは、食いしん坊だが愛嬌があり、いつしか隊のマスコットとなる。人間のまねをするのも大好きで、兵士とともに砲弾を運んだことが認められ、正式に兵士として登録され、ずっとともに行くことが認められる。ヴォイテクの天敵ともいうべきサルのカシカにさんざんな目にあわされながらも、カシカが赤ちゃんを産んだ時に、赤ちゃんに夢中になる。気がやさしくて、好奇心いっぱいのヴォイテクの存在は、戦場で殺伐とした兵士たちの心のよりどころになっていく。ついに勝利の日はくるが、それはボイテクとスタニスワフたちとの別れとなった。スコットランドの動物園で、その後も幸せに過ごしたとのことはなにより。原語はオランダ語だが、英語版からの訳だというのがきになるが、魅力的な作品だ。

ヒットラーのカナリヤ

 

ヒットラーのカナリヤ (Y.A.Books)

ヒットラーのカナリヤ (Y.A.Books)

 

ヒットラー占領下のデンマーク一家の物語。主人公の父の実話を基にした作品。弱小国のため、ドイツに占領されて、「ヒットラーのために歌を歌うカナリヤ」と揶揄されたデンマーク。主人公のバムスの母は女優、父は舞台美術も行う画家だ。親友アントンはユダヤ人だが、父の兄はナチスを支持している。兄のオーランドはレジスタンスに加わり、アントンとバムスも手伝うが、姉はドイツ兵と恋に落ちる。デンマークは、ユダヤ人を国民として最も早く認めた国で、占領下でも犠牲は2%にとどまったという。恐怖を感じながらもレジスタンスを手伝うバムス。家族の安全を最優先にしているが、ついに立ち上がる父。ユダヤ人をすくうために、最大の演技を行う女優の母、と、各人が平凡だが、生き生きした人間として描かれている。老兵と若年兵がデンマークにまわされ、ドイツ兵も見て見ぬふりをしてくれた様子など、単にドイツを悪として描かない点もバランスがとれていてよい。 

ほとばしる夏

 

ほとばしる夏 (世界傑作童話シリーズ)

ほとばしる夏 (世界傑作童話シリーズ)

 

 おじいちゃんが死に、父さんも家をでていってしまった。母さんは耐えられなくて私と弟をつれて引越しをした。都会の家は息がつまりそう。母さんの友だちが貸してくれた郊外の家で、夏休みを過ごせるようになったが、そこで私たちは森林管理官だというおじいさんに会う。いきなり鉄砲を向けてきたおじいさんに反発するが、まもなく年寄りで身の回りもおぼつかないようすに気付き、食べものを差し入れるようになる。弟にカヌーを教えてくれるが、誇り高く、愛想のいい顔は見せない老人。もう一度家族が一緒になることを夢見ていたのに、父さんは夢を追ってローマに行ってしまった。そして、進学の夢が断たれた母さんの過去を知る。世界が、それまで自分が思っていたものとは違うことを知る夏の経験が魅力的だが、訳にどこか違和感がある。訳で、もう少し変わるのでは?

ジェリコの夏

 

ジェリコの夏

ジェリコの夏

 

都会の恵まれない子どもに田舎での2週間をプレゼントするフレッシュ・エア基金。1910年、基金で田舎のジェリコに行ったドーシ。もうすぐ13歳だけど、姉さんと離れたのははじめて。受け入れ先の家の子ども、下のネルは人懐っこいがねえさんのエマはツンとしている。ユダヤ教の習慣をまもるドーンをおおらかにやさしく受け入れてくれるおかあさん。近所に住む雪の写真家ベントレーさん。田舎の暮らしに目を見張るドーンの気持ちが伝わってくる夏休みにぴったりの本。 

八月は冷たい城

 

八月は冷たい城 (ミステリーランド)

八月は冷たい城 (ミステリーランド)

 

 「7月」で夏のお城に閉じ込められている理由は緑色感冒炎、という設定が明らかになった分、こちらの男の子ゾーンのできごとは制限ができた。それ以外の謎というわけか、こちらでは危険な事件(突然像が倒れるなど)が続けて起こる。一応謎解きはあるが、恩田さんの嗜好は、解けるような解けないような謎で、それが「夏の人」が血まみれで現れるところに出ている。こういうイメージが浮かんじゃったんだろうなぁ~、でもこの謎解きは微妙な着地点に。リアルに想像したら、マジ気持ち悪いよ。

七月に流れる花

 

七月に流れる花 (ミステリーランド)

七月に流れる花 (ミステリーランド)

 

 ミチルは、突然の転校で夏流(かなし)という街に転校してきた。図工の時間に「夏の人」を描こうという課題が出され、自分以外の全員が緑の人を描いているのに驚く。このまちには、何かあるの? そして終業式に突然夏のお城に招待される。蔦に覆われた夏のお城に集められたのは、市内から集められた少女6名。みんなで自炊をしながら静かな時を過ごす。お城には井戸があり、鐘が3回なったらいつでもそこに行かなければならないという。そして庭に流れてくる花の数を色を含めて数えるように言われる。ミチル以外は事情を知っているらしい。リーダー格の蘇芳は、特に聡明な少女だ。というわけで、恩田氏の作品らしくメチャクチャムードが盛り上がるが、恩田氏の作品らしく、これまた絶対イメージ先行で描いた感じで、謎解きは後からのこじつけのよう。花が流れてくるイメージは、ファージョンの「小さいお嬢さまのバラ」を連想した。謎解き好きにはイマイチだけど、こういうイメージ世界が好きな子にはぴったり。

ペーパータウン

 

ペーパータウン (STAMP BOOKS)

ペーパータウン (STAMP BOOKS)

 

パターンは同じ著者よの『アラスカを追いかけて』に似ている。主人公は、ちょっと内気だがまじめで優秀な男の子Qことクエンティン。隣の家に住む幼馴染のマーゴは、発想がユニークで魅力的、Qのあこがれの女の子だ。高校の卒業式も間近。マーゴが浮気された彼氏に復讐するために付き合えと、突然夜中に呼び出される。女の子の家での浮気現場を彼女の親に電話し、元彼や彼女の家にナマズの切り身を放り込む仕掛けのあと、街を見下ろす塔で上から見るとまるでペーパータウン、紙でできた作り物の街のようだという。その後、シーワールドに侵入し、Qにとっては夢のような時を過ごす。だが、翌日、マーゴは失踪してしまった。たびだび家出をするマーゴに親はキレ。警察ももう18歳では自立できるといって捜査らしい捜査をしてくれない。Qは、ひょっとしてマーゴは自殺したのではないかと不安にかられ、懸命に探そうとする。友人のベンとレイダーの助けを借り、開発の途中で中止になった書類上の街(ペーパータウン)、さらに地図会社が著作権を守りチェックするために忍び込ませた架空の街(ペーパータウン)の存在を見つけていくところは推理小説のようで、なるほどエドガー賞受賞作。ついにマーゴの痕跡をみつけ、予告された制限時間に間に合うように、卒業式をすっぽかし、ベン、レイダーに加え、マーゴの親友レイシーも加わり自動車を飛ばしてペーパータウンに向かう。自分が思い描いていたのとは異なる素顔のマーゴを思うQ。ついに出会い、大学に行こうと説得するが、マーゴはもう帰らない。でも、つい考えちゃった。マーゴは家をなくして、これからどうする? 若くてセクシーな女の子は稼ぐ道は多いだろうけど、何をやろうというの? 親に買ってもらった車に乗っておこずかいの貯金を持って逃げ出すのが自立かい? こういう感想は親目線かもしれないがマーゴが自滅しないことを祈ります。