児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

シロクマたちのダンス

 

シロクマたちのダンス

シロクマたちのダンス

 

 母親が他の男性の子どもを妊娠し、大好きな父親(シロクマみたいで、プレスリーが大好き)と離れて暮らすことになったラッセ。学校の成績が悪くいたずら好きのラッセに対し、歯医者をしている義父は勉強を仕込み、服装や髪型も変えてイケてる見た目にし、ラッセ自身もそうなろうとしてみるが、最後はやっぱり実の父親と暮らすことを選ぶ。その決意を示すセリフ「ぼくは、ぼく以外のだれにもなれない」「そして自分がだれなのかは自分で見つけなければいけない」が、冴えなくてゆるい雰囲気で進んできたところへ、急に胸に刺さる。
作者ウルフ・スタルクの自伝的作品で、実際は実の父親が歯医者で教育に厳しく、スタルクは勉強が大嫌いで問題児だった。

ねずみのとうさんアナトール

 

ねずみのとうさん アナトール

ねずみのとうさん アナトール

 

 パリの近くの小さなねずみ村に、妻と6匹の子ねずみと暮らすアナトールとうさん。ある夜、食べ物を探しに入った家で、ねずみを罵る人間たちの言葉を聞いて、自尊心を傷つけられます。人間たちの評価を変えさせたいと考えたアナトールは、タイプライターでたくさんのメモを作ると、パリのチーズ工場へと向かいました。そして、チーズの味みについては世界一の舌で人間たちを助け、すばらしい地位を手に入れるのです。
ベレー帽にスカーフを巻いた誇り高いねずみのとうさんアナトールや、トリコロールで彩色された挿絵が、おしゃれなフランスの雰囲気を感じさせます。

火のくつと風のサンダル

 

火のくつと風のサンダル (子どもの文学―青い海シリーズ)

火のくつと風のサンダル (子どもの文学―青い海シリーズ)

 

でぶで、ちびの男の子チムは自分が嫌いで「違うぼくになりたい」と父親に話す。そこでくつ屋の父親は、チムの7歳のお祝いに赤いくつを、自分にはサンダルを作り、それをはいて4週間の旅に出ることにする。お互いを「火のくつ」「風のサンダル」と呼び合い、道中、チムが失敗したりめげそうになったりすると、父親はたとえ話をして励ます。いろいろな話を聞くうちに、チムは自分らしさが1番いいと気づき、ひとまわり成長して家に帰る。
子どもが自分の容姿を気にする気持ちがよくわかる。主人公は7歳だが、自分を見つめて受け入れる内容は中高学年にすすめたい。 

ちいさなりょうしタギカーク

 

ちいさなりょうしタギカーク―アジア・エスキモーの昔話 (こどものとも世界昔ばなしの旅)

ちいさなりょうしタギカーク―アジア・エスキモーの昔話 (こどものとも世界昔ばなしの旅)

 

 魚の図鑑しか見ない(読むのではなく・・・)という3年生の男の子に何かおすすめをと相談され紹介したところ、その母親と下の男の子4歳も一緒にどハマリしたという絵本です。
お母さんと2人暮らしの男の子タギカークは、漁師だったお父さんを自分が生まれる少し前に海の嵐で亡くしました。お父さんと同じ名前をもらったタギカークは、あるとき岩場で足を滑らせ海へ転落してしまいますが、その海の底で、亡くなったはずの父親に会い、漁に使うもりをもらいます。タギカークはそのもりを持って漁師たちのところへ行き、海に連れて行ってくれと頼みますが、相手にしてもらえません。たった1人、古いぼろ船に乗ったおじいさんだけが、タギカークを受け入れてくれました。
弱く小さい者が幸せを手にするという昔話の王道の中に、大人の変わり身のずるさや、老人と少年の絆など深く考えさせる要素が含まれ、子ども大人も満足できます。集団への読み聞かせでも、4歳くらいから楽しめます。

ラモーナとおとうさん

 

ラモーナとおとうさん―ゆかいなヘンリーくん

ラモーナとおとうさん―ゆかいなヘンリーくん

 

 「がんばれヘンリーくん」シリーズの第10作目で、ラモーナが主人公の4作目。

ラモーナは2年生の女の子。お父さん、お母さん、中1の姉ビーザスとの4人家族です。ある日、お父さんが会社をクビになり、ラモーナたちは生活を節約しなければならなくなりました。次の仕事がなかなか決まらずイライラするお父さん、仕事を増やして疲れているお母さん、思春期で反抗的な姉の中で、2年生なりに気をつかい楽しい家族を取り戻したいと奮闘するラモーナ。
たばこをやめないことを娘たちに責められ形無しのお父さんですが、「うちは、幸せな家族だよ」と言い切るところは頼もしく、新しい仕事が見つかるラストに希望を感じさせてくれます。

小さな可能性

 

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

 

 キークのパパは、お医者さん。世界中の紛争地帯に行って、助けを求める人を救っている。でも、キークも、ママも心配でならない。どこにいても事故は起こると、パパは言うけど、可能性が低い方がいい。いつも無事に帰ってくるパパが、今回は行方不明になってしまった。パパが死んだ子はいるけど、パパとペットの両方が死んだ子は知らない。だからペットが死んだらパパは無事に帰ってくる。キークは、ネズミを買ってきて死なせることを思いつく。不安のあまり、明らかに異常な行動にはしってしまうキーク。何もできないあせりが、迷信じみた行動につながっていくことは誰しも心当たりがある。パパが行方不明になり、かわいがっている飼い犬が死んだら見つかる? と考え、実行寸前に見知らぬ人に止められる。それは、パパが喜ぶ行動か?と問われて我に返るキーク。子どもの不安の切なさが伝わってくる。

がんばれウィリー

 

がんばれウィリー (1977年) (岩波少年少女の本)

がんばれウィリー (1977年) (岩波少年少女の本)

 

 ちょっとディケンズの雰囲気のある作品。ウィリーは、食料品屋の父と、きっちりした母に育てられている男の子。父は貧困の中からスタートして店を持ったのが誇りで、ウィリーに多大な期待をかけている。ウィリーは、学業は優秀だが、父親が期待するようなガッツのある男の子にはなれない。ちぐはぐでかけちがっている父が徐々にウィリーとうまくいくようになる様子がうれしい。