児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ぼくがとぶ

 

ぼくがとぶ (こどものとも傑作集)

ぼくがとぶ (こどものとも傑作集)

 

自力で飛行機を作って飛ぶ男の子の絵本。ちゃんと翼の形が揚力を考えたリアルなものなのがとてもい。一度は失敗するものの、二度目は大成功、飛んで飛んで北極にたどり着いてセイウチの大群に迎えられるようすが、ワクワクする。一面のセイウチが佐々木マキワールドという気がする。よみきかせとしては、幼児から高学年まで使えそう。 

みんなとぶぞ

 

みんなとぶぞ (創作えほん)

みんなとぶぞ (創作えほん)

 

ぶたたちが捨てられた飛行機を見つけ、それに乗って空の旅をする絵本。佐々木マキのナンセンスというより、ちよっと長新太っぽいナンセンスで、牛だの玉ねぎだのが浮いてくるのだか、これに対し牛って飛ぶんだって? と作者がつっこんでいるところが残念! ここは平然と飛んで、絵本を見ている子どもが言うセリフが「牛は飛ばないよ~」ではないかな。もうちょっと突っ走って欲しかった。 

ストローのふしぎこうさく ちょこっとできるびっくり!工作② 

 

ストローのふしぎ工作 (ちょこっとできるびっくり! 工作)

ストローのふしぎ工作 (ちょこっとできるびっくり! 工作)

 

 「ストローって、なんだろう?」「どんなストローがあるのかな?」とストローの性質を考えるところからスタートして、「ふいてみよう、すってみよう」「空気のとおり道をつくろう」「まげよう、つなごう」の3つのカテゴリーに分けて遊びを紹介していて、科学遊びとして紹介するには、『ストローのこうさく』よりこちらの方が他の本との関連付けなどもしやすいように思う。

ストローのこうさく やさしいこうさく⑧

 

ストローのこうさく (やさしいこうさく)

ストローのこうさく (やさしいこうさく)

 

 全部で25個のストローを利用した工作が紹介されているが、「おむすび」「ブレスレット」「みずぐるま」などは、真ん中に穴があるストローの仕組みをいかしたものというより、ビニールのひも状のものであることを利用したもの。ストローを吹いて押し出される空気の力で遊ぶものがやはり楽しそう。このシリーズはよく借りられるが、実際に使えそうなネタが多い。

列車はこの闇をぬけて

 

列車はこの闇をぬけて (児童書)

列車はこの闇をぬけて (児童書)

 

 14歳のミゲルは、合衆国に働きにいったきり戻ってこない母さんのところに行くため、故郷グアテマラを出る決意をした。メキシコを抜け、アメリカまでたどりつくための道は長い。青少年難民センターで声をかけてきた年上のフェルナンドはすでに何度か経験があるらしいが詳しいことは語りたがらない。同じテーブルにいたヤスは同い年の女の子、そして年下のアンジェロとホンジャラスから来たインディオのエミリオの5人がチームになった。なけなしのお金を搾り取ろうとする国境の船頭、行く先々の大規模な取り締まり、貨物列車になんとか乗り込むが、手入れにおびえ、追い詰められて落ちて死人やけが人も出る。わいろで動く警官に会えればラッキー。親切な神父の助けに一度は救われたものの、そこで気が緩んだために次はハメられて身ぐるみはがされ、さらに身代金目的の誘拐犯につかまる。やっとたどりついた国境では、膨大な手数料が必要となり、やっとたどりついた合衆国で、思いがけない警戒態勢にはばまれる! 100人がのうちたどり着くのは1人という過酷な状況の中で、仲間の中からも脱落者が! はたしてフェルナンドの意図は? ミゲルはたどりつけるのか? そしてたどりついた先には何が? 子どもたちを応援したくなるが、年間平均30万人という不法移民の実態を知ると、この解決方法はやはり自国で食べて暮らせることだろうと思う。移民を止める塀を作るよりも、適切な援助でこうした国が立て直されることがベストだろうけれど、そう簡単にいかない理由を私たちは考えなければいけないのだろう。

月の森に、カミよ眠れ

 

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

 

 朝廷の支配が全国に行き渡る古代。狩猟採集と雑穀の栽培で暮らす奥地の小さな村も、その流れに呑まれようとしていた。カミが人間のそばに住み、時に人間と通婚する世界が終ろうとしている中で、人間に不利益をもたらす力はオニとして忌み嫌われ、利益があれば祭られるものにかわっていく。その端境期にむらのカミンマ(巫女)となったキシメと、その村に住まう神の子であるタクヤの絆。そこに田を拓くために、カミと闘い境界の沼を神から取り戻すためにやってきたナガタチもまた、タクヤとお同じく人間の女と神の間の子であったが、母は弱くカミを恐怖して早逝し、他人と違う体の大きさや力を疎まれながら成長してきた。キシメに惹かれるナガタチ。カミがオニへと貶められていく時代の変わり目を、小さな山奥の村を舞台に描きながら普遍性を感じられるものに描いているのはさすが。最後、米を作るようになった村人が、結局その米を口にできない様子に、米を作ることで村が救われると信じた村長たちの希望がつぶされたのをみるようで悲しい。

邪馬台戦記 Ⅰ闇の牛王

 

邪馬台戦記 闇の牛王

邪馬台戦記 闇の牛王

 

佐竹美保氏の表紙絵と邪馬台国に惹かれて読んでみたが、残念ながらがっかり。牛王でわかるように、ギリシア神話ミノタウロスを連想させる物語があり、作者は意図的に行っているようだが、ギリシア神話のような背景(ミノタウロスの誕生、迷宮の製作、英雄テーセウスなど)なしに使っているので、底が浅くなってしまっている。そして中国から倭に来る公達という一行の物語とからめているが、ちょっとご都合主義的にとんとんとたどり着き、からめる必然性が感じられない。卑弥呼やツテナが実際に不思議な力を使わせながら、当時は麻薬の力で幻覚を見せていたと解説する作者は何をしたいのだろう? 登場人物たちの感覚が今風で、古代人が当時どういう世界観を持っていたかを古代人の立場で描いているようにも見えない。テーセウスの冒険と違って、牛王もけっこう手軽に倒せるし、ドキドキハラハラがないので、何とか1はよみましたが、もういいです・・・。