児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

願いごとの樹

 

願いごとの樹

願いごとの樹

 

 主人公はレッドオークの木である私ことレッド。願い事の木として、いろいろな人が私の枝に願いを結びつける。この国はさまざまな移民を受け入れてきたが、すぐ隣の家に越して来たスカーフで髪を覆うサマールの家族はみんなの中にうまく入れないようなので私は心配している。おまけに、私の幹に「去れ」と嫌がらせが彫られてしまった。私はもう片隣のスティーブンとサマールが仲良くなれるように、木に住んでいる生き物たちに協力してもらった。二人の後押しをしようと、私は禁を犯し、二人に話しかけ自分が「願い事の木」になった由来を話してしまう・・・。原書発行は2017。排他的になっているアメリカで、移民の原点を振り返るように願って書かれた物語かと思う。だが、個人的には「去れ」と彫った男の子のこともちゃんと描いて欲しかった。

夢見る人

 

夢見る人

夢見る人

 

 チリの世界的な詩人で1971年にノーベル文学賞を受賞したパブロ・ネルーダをモデルとしてその子ども時代を描いた作品。身の回りのさまざまなことに気を奪われて、学校へまっすぐたどりつくことすらおぼつかないような感性をもつネフタリ。見つけた塀の穴から壊れた羊のオモチャを差し出され、お返しに大切にしていたマツボックリをあげるが、その相手を探しに塀の向こうに行くと誰もいなかったエピソードは、特に鮮烈。常に、もう一つの世界とつながっているように見えるこの男の子は、さぞや大変な子だったと思う。貧乏から這い上がり、息子たちに厳格に育てて高い地位や裕福な暮らしをさせようという思いで家族を支配している父。やさしいママードレは、義理の母だが、その父からできるだけ守ってくれている。その弟で新聞記者をしているオルランドおじさんは、先住民を擁護する運動家だ。兄を無理やり音楽の道からひきはがしたり、体を鍛えるために無理やりネフタリと妹を海の中に追い込む父親は暴君のように見えるが、同時に断固として父の思い通りにならずに抗うネフタリは、実は父親に似ているのではないか?(本人も気付いていないけれども)と、思わされた。先住民族を擁護する運動ゆえに新聞社を焼かれる叔父、ネフタリも大切にしていた原稿を父に燃やされる。だが最後に彼は、大学教育を受けるために父のもとを去る。学費を出しているのは父親そして彼の身を包んでいるのは父親のものだったマントだ。若い頃に読んだとしたら、この父親に反感しか感じなかったと思うが、この年になって読むと、理解不能な息子を間違ったやり方だとしても愛した一人の父に見える。祖国の政変の中で、迫害を受けながらも民衆に愛されたという詩人の柔らかく、だが強靱な精神の根が幼い日々にあったことを理解させられる作品。ピーター・シスによる挿絵も作品の雰囲気を効果的に伝えていてよい。

エヴリディ

 

エヴリデイ (Sunnyside Books)

エヴリデイ (Sunnyside Books)

 

 毎日、目が覚めると別の人間。Aは、意識だけが存在している。自分では何もコントロールできないまま、一定の範囲にいる同じ年齢(徐々に育っている)の人間の中で1日だけ過ごす。同じ人間には二度となれない。眠らなければその人物にとどまれるか? と思ったが、苦しむだけで無理だった。自分だけが特殊だということに徐々に気付き、今では、宿主の意識から、とりあえず一日をやりくりする情報をキャッチして、無難に過ごす要領を得徳している。SNSで、自分のアカウントを作って、記録をとったり、メールができるようにしているが、結局友だちのメールを長続きさせることはできていない。会えないのだから。ところが、転機が訪れた。たまたま入った宿主ジャスティンの彼女リアノンに強く惹きつけられたのだ。ジャスティンは、彼女のことなど遊び相手にしかしていないのに。翌日も、その次の日も、リアノンに何とか会おうと、宿主を動かして近づくが、当然リアノンは、それぞれ初対面として対応する。しかも、ギリギリまで側にいたかったばっかりに、ネイサンというとてもまじめな男の子を、普段は行かないようなパーティーに、リアノンのために行かせてしまい、帰れなくなって夜中、車の中で寝て体からでた。宿主は、普通は、自分がちょっとぼぅっとしていたけれど、普通の日を送ったと思ってくれるのがふつうなのに、あまりに違う行動をしてしまったために、ネイサンは、悪魔か宇宙人に体を乗っ取られたとして大さわぎを引き起こす。そんな中、Aは、ついにリアノンに本当のことを打ち明ける。リアノンは、最初は信じてくれなかったが、徐々に理解し、Aとの絆を深めてくれた。だが、ある時はドラッグ中毒、あるときは自傷癖と自殺願望の体の中で目覚め会えない時もある。女の子の時や、不気味な肥満体の宿主の時は、リアノンはよそよそしい。そして、リアノンは、誰にも紹介できない人間との付き合いの継続が耐えがたいといいだした。一方、ネイサンも真実が知りたくて耐えがたいと。そしてネイサンの背後にいたプール牧師は、なんとAと同類で一日以上特定の人間のところにとどまる方法を教えようと持ち掛けてきた! 毎日違う自分と言う人生から抜けられるのか? 不思議な設定の中、外見と中身、周りの人間と築く関係性について考えさせてくれる。ひょっとして、Aは、私の所にも来たことがあるかもと考えたりと、読んだ後もイメージが広がっていく。

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トウジュ

 

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ

 

 沙弥は、マレーシアからの帰国子女。しかも中学二年9月からの転校で憂鬱だった。友だちができなかったらどうしよう? 幸い、さっぱりした朋花ちゃんとは仲良くなれたけど、どこのグループにもまだ入れないでいる。そこに学校でも有名な中学三年の図書委員、督促女王佐藤莉々子から呼び出しを受けてしまった! 恐る恐る本を返しに行くと「ギンコウ」に付き合えと命令される。えっ、銀行? なぜ? 商店街を歩きながら、時々メモをとる莉々子。しかも銀行は通り過ぎる。わけがわからなかった沙弥だが「ギンコウ」とは「吟行」つまり、短歌を作るために歩くことと知ってびっくり。興味を惹かれて、今後の同行を了承するが、学校でも変わり者の莉々子と仲良しだと思われたらクラスで大丈夫か? クラスに誘いにきてくれた莉々子を友だちにはメイワクだと言ってしまう。だが、図書室の七海さんに励まされて、気付いた。自分は莉々子と短歌が大切なことを。そして、もう一人、転校前から気になっていたクラスメートの藤枝港。なぜか給食を食べない彼には何か秘密があるみたい。変わったタイトルの種明かしは読んでからのお楽しみ。時折混じるマレーシア語がいい味を出していて面白い。ただ、これがデビュー作、という作者のためか、ちょっとわかりにくいところもあった。たとえば七海さん。これは下の名前のようだが、中学生が学校図書室の司書を下の名前で呼ぶだろうか?(かなり親しくなったり、影で呼ぶならともかく)。七海さんの初登場の時、これ誰? と一瞬迷った。また、港の給食を食べない秘密についても、ここまで中学生が決心するのかな? それなら、それを納得させてくれる情報をもうちょっと書いて欲しかった。この作品は、映像化かマンガの原作に向くのではないだろうか? 画で情報を補うと、アイディアがいいから映えると思う。まだ若い作者なので、次作が楽しみです。

たんけんクラブ シークレットスリー

 

たんけんクラブ シークレット・スリー (こころのほんばこ)

たんけんクラブ シークレット・スリー (こころのほんばこ)

  • 作者: ミルドレッドマイリック,アーノルドローベル,Mildred Myrick,Arnold Lobel,小宮由
  • 出版社/メーカー: 大日本図書
  • 発売日: 2017/03/17
  • メディア: 単行本
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 海辺で遊んでいたビリーとマイクが見つけたのはなんと暗号入りのガラス瓶。鏡文字であることに気付いて解読すると、これを読めたヤツとたんけんクラブを作りたいと書いてありました。どうやら近くの島に新しく来た灯台守に男の子がいる、どうやらその子がこの手紙をくれたようなのです。二人は、お返しにオリジナル暗号の手紙を作ってビンに入れ、引き潮に合わせて海になげます。暗号でのやりとり、島での冒険とワクワクする楽しい雰囲気が伝わってきます。各ページにアーノルド・ローベルの絵も入り、お話を読み始めた男の子向きの本としてお勧めです。

星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚(2019年課題図書中学生)

 

星の旅人: 伊能忠敬と伝説の怪魚

星の旅人: 伊能忠敬と伝説の怪魚

 

伊能忠敬の初の蝦夷測量の旅の史実を元にした物語だが、要所要所に関連するトピックスの解説が挟まれている。緯度1度の長さを知りたいが、そのためには長い距離を測る必要がある、ということがきっかけで始まった旅。そこに、幕府の天文方としてやはり蝦夷測量に出た父がそこで亡くなったと知らされて、どうしても確かめたくて忠敬に同行を願った平次という男の子(完全に架空の存在)の物語をからめている。ただこの物語は、タイトルが納得がいかない。一応物語の最後のころに“神の魚”という暗号は出てくるが、伝説の怪魚は物語の中でさほど重要な役目を果たしていないし、表紙絵にも魚を描く必要はないように思った。とびぬけた才能はなくても、粘り強く努力する忠敬、軽はずみなところはあるが明るい忠敬の息子の秀蔵、まじめでこれからどう生きていけばいいかを探している平次という三人の物語としてそれなりにテンポよく進んでいる。ただ、歴史物語としては、関所があるというのに平次が従者と簡単に入れ替わってごまかすという対応、アイヌの人たちからの情報収集、クマに襲われても助かるなど、都合よすぎるように感じてしまった。忠敬の努力と平次の一途さをネタにして感想文を書けば、とりあえず書けそうには思うが、物語の深みには欠ける気がする。 

サイド・トラック 走るのがニガテなぼくのランニング日記(2019課題図書中学生)

 

サイド・トラック: 走るのニガテなぼくのランニング日記

サイド・トラック: 走るのニガテなぼくのランニング日記

  • 作者: ダイアナ・ハーモンアシャー,Diana Harmon Asher,武富博子
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2018/10/10
  • メディア: 単行本
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 フリードマンはADD(注意欠陥障害)をかかえていて、ちょっとしたことが常にひどく気になってしまう。合間に通級指導教室で一息ついてほっとしている。いつもイジメのターゲットにされて、体育のサッカーではわざとふっとばされることが多い。なのに、転校生の女の子ヘザーが救ってくれた。背が高く、男の子よりパワーがある堂々とした女の子。クラスの男の子も女の子も彼女を微妙に敬遠するが、フリードマンには救いの神だ。そんな折、通級指導教室の担任でもあるT先生が、陸上部クロスカントリーのチームを作るというので誘われる。フリードマンは運動は全然ダメなのに、ヘザーも入るというのにつられるようにして入るのだが、もちろんろくに走れない。すぐへばる、ピストルのスタート音が恐怖で、固まってしまう。ダメダメで、逃げたくなるのだが、他の仲間やなによりヘザーの励ましでなんとか続けるだけは続けていく。高齢者施設から脱走してきたおじいちゃんは、彼を「スーパーヒーロー」だという。自分はそんな人間じゃない、ピストルの音さえ怖いと反論するフリードマンに対し、耳栓が必要なのは「おまえがほかの人よりもよく聞こえるからだ。それにほかの人よりよく見えるし、ずっとたくさんのことを感じとる。おまえのそういうところが、おれは大好きなんだよ。」と語りかける。トップランナーにはなれなくても、少しづつ自分の記録を更新していくフリードマン。強いと思っていたヘザーの悩みに気付き、彼女を助けたいと願う。特別なことはできないけれども、誠実で(でいながら、ヘザーの敵討ちをバッチリ成功させる!)自分らしく前に進むフリードマンの生き方は、素直に共感できる。いわゆる感想文の書きやすい本であるだろうが、そう簡単にまとめられない魅力が同時にあると感じられてオススメ。