児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

高校生以上

モノクロの街の夜明けに

モノクロの街の夜明けに 作者:ルータ・セペティス 岩波書店 Amazon 1989年のルーマニアはチャウシェクス独裁体制下にあった。食料は配給の列にならばなければ手に入らない、電力は不足気味で突然の停電もある。17歳のクリスチャンは、突然スパイになるように…

きりこについて

きりこについて (角川文庫) 作者:西 加奈子 KADOKAWA Amazon 極めつけのブスに生まれついたきりこは、両親から常にかわいいと言われ(美形の両親は本気でそう思っていた)、自分はかわいいと確信し、自信をもってまわりを巻き込む女の子として成長していった…

両手にトカレフ

イギリスで暮らす14歳のミアは飢えている。母親が生活保護費をドラッグに使ってしまい、食べ物を買えないのだ。なんとか弟のチャーリーに食べさせたいと思うと、自分の食事を抜くしかない。学校の給食は一定額まで無料だが、それでは飢えてしまう。こっそり…

ラブカは静かに夢を持つ

ラブカは静かに弓を持つ 作者:安壇 美緒 集英社 Amazon 全日本音楽著作権連盟に勤める橘樹(たちばないつき)は、ミカサ音楽教室への潜入調査を命じられる。5歳から13歳までチェロを弾いていた経験からの人選だった。教室で授業を受け、どういう音楽が使…

ガラスの顔

ガラスの顔 作者:フランシス・ハーディング 東京創元社 Amazon ネヴェルナはチーズづくりの親方に拾われてせいちょうした。ネヴェルナが住むのは地下都市カヴェルナ。ここの人は≪面≫と言われる表情を身に着けて成長するが、貧乏なものほど≪面≫は入手できず、…

「幸せの列車」に乗せられた少年

「幸せの列車」に乗せられた少年 作者:ヴィオラ・アルドーネ 河出書房新社 Amazon 児童書とは言えないかもしれないが、8歳の男の子の視点で描かれた物語には、きちんと子どもの気持ちが描かれている。アメリーゴはナポリの貧しい地域で母親と二人で暮らして…

熊と小夜鳴鳥 冬の王1

熊と小夜鳴鳥 (創元推理文庫) 作者:キャサリン・アーデン 東京創元社 Amazon 著者のデビュー作とのことだが、きちんと世界が完成された物語。ロシアの北の領主ピョートルは、大公の異母妹マリーナを娶る。マリーナの母は、森からやってきた不思議な魅力をた…

タスキメシ 五輪

タスキメシ 五輪 作者:額賀澪 小学館 Amazon コロナ下ではじまることになった東京オリンピック。料理人の道へ進もうとしていた都の勤め先は閉店。仕事がない中で、矛盾をかかえながらオリンピック会場での食堂での仕事に応募した。そこで出会ったのは、都の…

美しき野生 ブック・オブ・ダスト2

ブック・オブ・ダストI 美しき野生(下) (新潮文庫) 作者:フィリップ・プルマン 新潮社 Amazon 突然の大雨による洪水の中、ライラをさらうために修道院が襲撃される。マルコムは、鱒亭と修道院の手伝いをしている勝気な少女アリスと共に、なんとかライラを救…

美しき野生 ブック・オブ・ダストⅠ

ブック・オブ・ダストI 美しき野生(上) (新潮文庫) 作者:フィリップ・プルマン 新潮社 Amazon ライラの冒険シリーズの前日談。マルコムはパブ兼旅館の鱒亭の息子で11歳。「美しき野生」号というカヌーを持っている。好奇心が強く、頭の回転もいい。家の仕事…

続 あしながおじさん

続 あしながおじさん (偕成社文庫4061) 作者:ジーン ウェブスター 偕成社 Amazon 「あしながおじさん」でジュディーの親友だったサリーが、孤児院の院長になって改革に奮闘する日々を、サリーの手紙でつづる。 相手は、ジュディーのほか、政治家である婚約者…

13歳から考える住まいの権利

13歳から考える住まいの権利 作者:葛西 リサ かもがわ出版 Amazon 著者は、ひとり親、DV被害者、性的マイノリティの住生活問題、シェアハウスに関する研究が専門。「住まいは人権」という意味を、日本の住宅政策の歴史をたどりながら、社会的弱者の目線でか…

グレイス・イヤー

グレイス・イヤー 少女たちの聖域 作者:キム リゲット 早川書房 Amazon 16歳を迎えた少女たちは魔力を宿し、危険な存在になるため一年間街から追放される。森の奥のキャンプで魔力を解き放ち、清らかになるために。だが、このグレイス・イヤーについては決…

真実の裏側

真実の裏側 作者:ビヴァリー ナイドゥー,Beverley Naidoo,もりうち すみこ めるくまーる Amazon 2001年カーネギー賞受賞作。ナイジェリアに住むシャデーとフェミの姉弟は、やさしい両親と共に幸せに暮らしていた。だが、ジャーナリストの父が反政府記事を書…

昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す(2023課題図書高校生の部)

昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す (&books) 作者:アンヌ・スヴェルトルップ・ティーゲソン 辰巳出版 Amazon 一見目立たないが、その圧倒的な数で地球環境に大きな影響を与えている昆虫。信じがたいほど精妙な体のつくり。食物連鎖や植物との共進化など、…

翻訳ってなんだろう?

翻訳ってなんだろう? (ちくまプリマー新書) 作者:友季子, 鴻巣 筑摩書房 Amazon 翻訳とは、原作をとことん読んで理解する読書でもある、という著者の言葉に納得。正確に訳すのは当然だが、そこで描写されている視点、主人公の気持ちで言葉が変わってくると…

本屋さんのダイアナ

本屋さんのダイアナ(新潮文庫) 作者:柚木 麻子 新潮社 Amazon 大穴と書いてダイアナと読ませる。そんなとんでもない名前をつけた母親がうらめしいダイアナ。だけど小学校3年になった時、自分の名前を「『赤毛のアン』の親友はダイアナというんだよ」と名…

中学生から知りたいウクライナのこと

中学生から知りたいウクライナのこと 作者:小山哲,藤原辰史 ミシマ社 Amazon 著者の2人は歴史学者。それぞれ、ポーランド史、食と農の現代史を専門とし、隣国として、豊かな穀倉地帯として、ウクライナとは深く縁のある領域を研究。 本書は、ウクライナ侵攻…

終点のあの子

終点のあの子 (文春文庫) 作者:柚木 麻子 文藝春秋 Amazon 2008年の著者のデビュー作。ミッションスクールの高等部に新しく入ってきた朱里は、有名カメラマンを父に持ち、自由奔放。まわりの空気を読まず、自然に振る舞い、美術の授業では明らかな才能をみせ…

住所、不定

住所,不定 (STAMP BOOKS) 作者:スーザン・ニールセン 岩波書店 Amazon フィーリックスは、まもなく13歳。ママのアストリッドと暮らしている。以前はおばあちゃんの家でみんな一緒に暮らしていた。だけどおばあちゃんは死んでしまった。そこからトラブルが…

世界のたね 真理を探究する科学の物語 下

世界のたね 真理を探求する科学の物語 下 (角川文庫) 作者:アイリック・ニュート,猪苗代英徳 KADOKAWA Amazon 下巻は、ダーウィン、マリー・キュリー、アインシュタインといった人たちの分野を中心に。宇宙という膨張し続ける巨大な空間・時間の世界と、ウイ…

世界のたね 真理を探求する科学の物語 上

世界のたね 真理を探求する科学の物語 上 (角川文庫) 作者:アイリック・ニュート,猪苗代英徳 KADOKAWA Amazon 自然科学の歴史を、人類誕生から現代につながる大きな「物語」としてつづる。上巻は、人類誕生から産業革命まで。アリストテレス、ガリレオ、ニュ…

戦争遺跡から学ぶ

戦争遺跡から学ぶ (岩波ジュニア新書) 岩波書店 Amazon およそ50か所の戦争遺跡について、26人の執筆者が分担して紹介。読み通すというより知りたい項目を資料集的に読む1冊。巻末の「すぐわかる戦争用語」や「近代日本の戦争史年表」は、基本的知識を得ら…

クジラの骨と僕らの未来(2022課題図書高校生)

*1" title="クジラの骨と僕らの未来 *2" /> クジラの骨と僕らの未来 *3 作者:中村玄 理論社 Amazon 動物が好きだった子ども時代。中学校の授業でウシやブタの内臓を観察させてくれる体験をさせてくれた女ドリトル先生と言われた菊池昌子先生と出会い、内臓や…

建築家になりたい君へ(2022課題図書高校生)

建築家になりたい君へ (14歳の世渡り術) 作者:隈研吾 河出書房新社 Amazon 新国立競技場を建設した隅研吾氏が、自分が建築家になった経緯を自伝的に書いた本。小学校4年で当時の国立競技場の建築を見て夢中になり、大学は建築学科に進むが、アフリカの建築…

その扉をたたく音(2022課題図書高校生)

その扉をたたく音 (集英社文芸単行本) 作者:瀬尾まいこ 集英社 Amazon 老人ホーム「そよかぜ荘」のボランティアでギターと歌を披露した宮路は、最後に施設の職員が一緒に演奏してくれたサックスの音に目をむく。渡部という名札をつけたさわやかな青年。どう…

14歳のための時間論

14歳のための時間論 作者:佐治晴夫 春秋社 Amazon ゆらぎ理論の研究者が、「時間」についての謎を、主に「心」の側面から説き明かす。日曜日から土曜日の1日1テーマで7章という設定。ゆったりとした文字組で、やさしく語りかけながら、とにかく幅広い話題…

同志少女よ敵を撃て

同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon 本屋大賞も受賞し、読まれているのをうれしく感じる本。児童書として出たわけではないけれど、あきらかな成長物語で中高生に薦めたい。 農村で生れ、害獣駆除のために銃を習ったセラフィマ。だが、戦争…

これからの男の子たちへ

これからの男の子たちへ: 「男らしさ」から自由になるためのレッスン 作者:太田 啓子 大月書店 Amazon 著者は弁護士。性差別や性暴力を社会からなくすには、男の子の育て方こそ重要と、公私の体験(見聞きしたことも含む)に基づいてわかりやすく論を展開し…

しおかぜ荘の震災 車いすから見た3.11

しおかぜ荘の震災 作者:木村 航 双葉社 Amazon 藤島環は体が石化する難病にかかり徐々に体が動かなくなっていく、宮城の山の中の施設「しおかぜ荘」に入所しているが、地域で暮らしたいと思っている22歳の女子だ。そこに3.11が襲いかかる。高台にある施設…