- 作者: フランシス・ホジソン・バーネット,エセル・フランクリン・ベッツ,高楼方子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2011/09/15
- メディア: 単行本
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福音館 高楼訳
セーラがミンチン先生に言い放つ有名な場面
髙楼訳は、確かに髙楼さんの作品で、セーラの人物像も、高楼作品の主人公そのもの。
はっきりした意志を持ち、いささか生意気で、頭脳明晰。なにしろ、自らを「王女」と言い放ってはばからない大胆さ。
表紙の黒服の少女はその特徴をよく捉えている。ぎょっとするほどの目の力の強さがある。
原文英語はむしろあっさりしていて、その再現という点では脇訳の方が勝るのだろうけれど、人物像が前に出てくるという点では、高楼訳に軍配があがる。
本年度のよむよむではこちらを採用します。
「考えごとをしていたのです」と、セーラは答えました。
「すぐにあやまりなさい」ミンチン先生が言いました。
セーラは一瞬ためらってから返事をしました。
「笑ったことはあやまります。もし、失礼にあたったのでしたら。」それから続けました。「でも、考えごとについては、あやまるつもりはありません」
「何を考えていたの!」ミンチン先生は詰め寄りました。「よくもまあぬけぬけと、考えごとなどと!何を考えていたっていうの!」
略
セーラは、堂々と、でも礼儀正しく返事をしました。
「私は、先生はご自分のなさっていることをわかっていらっしゃらない、ということを考えていました」
「…自分のしていることを…私がわかってない…って?」ミンチン先生はほとんど息を切らしながら言いました。
「はい。―それに、もしも私が王女だったら、どういうことになるだろう、私をぶった先生に対して、王女として私はどうするべきだろうと考えていました。それに、もしも私がほんとうに王女だったら、私が何を言っても何をしても、先生はああいうことは、けっしてなさらなかったろうと考えていました。それに、先生はどんなに驚き、おののかれるだろうかと考えていました。もしも、突然、すっかりおわかりになったなら―」
想像上の未来がありありと目に映るあまり、セーラはミンチン先生をも動揺させるほどのしっかりした態度で答えたのでした。そして一瞬、想像力を欠いたミンチン先生の狭い心にさえ、セーラのこの率直で大胆な物言いの陰にはそれなりの力が隠されているにちがいない、などという思いもよぎったのでした。
「何が?」と、先生は大声で言いました。「何がすっかりわかるというの?」
「私がほんとうに王女で―」セーラは言いました。「そして、思いのままに何でもできるということが、です」