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アルフレッド王の戦い

アルフレッド王の戦い

アルフレッド王の戦い

概要

舞台は九世紀のイングランド。

「デーンの足」とあだ名された片足の少年アルフレッドが、ずっと晩年になってから、少年時代の事を振り返った物語。

デーン人の侵入により、アングロ・サクソンのキリスト教王国が防戦を迫られている時代。少年時代、戦闘に巻き込まれて片足も、家族も失ったアルフレッドは、育てられた修道院も破壊され、流浪したあげく、ウェセックスのアルフレッド王の元に引き取られ、教育を授けられることになる。国王秘書としてアルフレッドの身近に仕えながら、戦争の経過を書き留める。

アングロサクソンが退潮で、デーン人に侵入されることはもはや防ぎがたいという時代の流れの中で、アルフレッド大王は、譲るべきものは譲り、守るべきものは守るという柔軟な取引と、戦略とで、平和を導く。

 

感想

イギリス好きの私としては、気にはなっていながら手に取っていなかった不覚。

時代背景をどのくらい分かっていれば楽しめるのか、についてはいささか不安がある。

ただ、全体としてはよくできた合戦絵巻のようで、単純ないくさ物として楽しめる。

生け捕りにされた王が虐殺されるとか、結構血なまぐさい場面も多い。臨場感がとてもある。

基本的には少年アルフレッドの視点から描かれるのだが、時折カメラが変わるように語り手が変わっていることもある、不思議な書き方。

大王は語る「われわれの死後におこることは、よきこともあしきことも、いっさい、今日ここにいるわれわれの行動によってきまっていくのだ」

だから、玉砕などできない、恥辱にまみれても、金で買ったと言われても、王国を保つ事こそが大事なのだ、と説く大王の台詞に、全篇のメッセージが込められていよう。逆に言うと、このアルフレッド大王は、とても中世の人には思えない。近代人がここにいる。

サトクリフのローマン/ブリテンの時代は、このもう一つ前の段階。

さすがに彼女の作品には追いつかない。主人公の内面より、いくさの経緯や、情景に重きが置かれている。著者が男性だから?

基本書ではあるが、読者を相当選ぶと思う。