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僕のお父さんは東電の社員です

 

「僕のお父さんは東電の社員です」

「僕のお父さんは東電の社員です」

 

 震災直後、毎日小学生新聞に「僕のお父さんは東電の社員です」と書き出される投書が載った。

今回の事故後、東電ばかりが非難されるが、実のところみんなにも責任があるのではないか。これからどうするのかをみんなで話し合っていこう、というような趣旨で、これに対し、賛否両論のさまざま応答が紙上で繰り広げられた。この本は、これら新聞に掲載された投書をまとめたもので、これに森達也のが長文の応答を書いている。

今になって読み返してみると、これもまた、あの震災直後だったから書けた、ある種の熱気というものが伝わってくる。しかし同時に、そこから2年で、事態が何一つ良くなっていないどころか、かえってやりきれない状況にはまり込んでいることにびっくりする。誰も何も決めないうちに、なし崩し的に原発は0になり、しかし、再稼働に向けて粛々と動き、東電はまともな賠償に応じることもなく、みんなで話し合うこともなく、節電なんていつの時代の話しだったかという風情で、とりあえず見ないように、忘れるようにしているとしか思えない。

この本は、原発の実情を伝えるほどには情報量があるわけではない、子どもの書いた(今から見れば)単なる思い込みがあちこちに見て取れる。正確であるかどうかもその限りではわからない。

とはいえ、二年前のこのとき、それこそ多くの小学生がやむにやまれず投書を書いたのだ、という事実は重い。