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マルセロ・イン・ザ・ワールド

 

マルセロ・イン・ザ・リアルワールド (STAMP BOOKS)

マルセロ・イン・ザ・リアルワールド (STAMP BOOKS)

 

 アスペルガー症候群の一種で、認知能力に障がいがあるマルセロは、私立の養護学校で満足している。だが、父から高校2年の夏を、自分の弁護士事務所で働くようにと誘われる。「リアルな世界」を体験してほしいというのだ。マルセロにとって戸惑うことも多いが、上司ジャスミン(少し年上の美女)は公平で、徐々に仕事も慣れる。だが、父の共同経営者の息子ウェンデルは、ジャスミンを“モノ”にする計画にマルセロを巻き込もうとし、マルセロは混乱する。そして1枚の写真を見つけたことから、マルセロは事務所が意図的に隠している不正に立ち向かうこととなっていく。当初、自分だけの音楽にのめりこむマルセルが、徐々にそれを失っていく様が、現実の適応を表しているが、障がいがあるからこそ公正なマルセロの姿に、聖なる愚者の系譜も感じる。謎解きのスリリングさもあり面白く、著者は実際に障がいのある方の施設での勤務経験もあるという。しかし、実際にはこれほどのテンポで現実への適応が進むのだろうか?