児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

小さな魚

 

小さな魚

小さな魚

 

 なぜだか戦争物、それも枢軸国側から見た第二次世界大戦が続きます。

読まなければならない事がわかっていても、読めずにいた一冊。実は初読。

概要

第二次世界大戦下のイタリアが舞台。ナポリの穴蔵で暮らしている孤児のグイドが、やがて空爆下のナポリを逃れて、仲間と共にカッシーノまで旅をする。カッシーノはドイツ軍が最後の抵抗を試みた激戦地。仲間を失い、様々なものを見ながら、最後は連合軍に保護される。

感想

はじめっから父親は戦死、母親も病死というすごい状況。幸せな日常がやがて戦争で破壊されていく、というような物語が多い中、ここではいきなりどんぞこから始まる。物乞い、どろぼうなんでもやって生きていく。しかし、爽快なたくましさともまた無縁。はっきりしたストーリーがあって、最後は見事に大団円という物語ではない。結末だって、これで終わり?と思うようないささか唐突な感じがある。死ぬものは残酷なぐらいあっさりと死んでいく。

きたない水の中で生きていく小さな魚、それがぼくたちだ。よくもなく、悪くもなく、ただ生きていく権利はある。そんな認識がタイトルの元になっている。

グイドはまるで哲学者のようだ。まるで子どものようでなく、大人たちを観察し、批評し、独白する。彼の視点があったればこそ、この深みが生まれた。

印象的なシーン、登場人物は多い。町から逃げ出す老伯爵、ローマのコインを教えてくれたドイツ人将校、元教師で最後は地雷で亡くなるルイージ。いずれも強烈な印象を残していく。

やはり読まなければならない一冊だった。しかし、誰にでもお勧めできるという本とは言えない。読むべき時が来るのをじっと待たなければならない本。