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銀のうでのオットー

 

銀のうでのオットー (子どもの文学―青い海シリーズ)

銀のうでのオットー (子どもの文学―青い海シリーズ)

母が死に、父に修道院に預けられ育った少年オットー。静かな優しい世界で子供時代を過ごしたある日、父が迎えにきた。
父の世界は、修道院とは真逆の殺戮と略奪の世界で、オットーは父がたくさんの人を殺してきた事実を知り悲しみに明け暮れる。ある日、父の留守中に、敵のヘンリー男爵の策略で城から連れ去られたオットー。そのオットーを奪い返すべく父親のコンラッド男爵は、救出に向かう。
 
物語は面白いし、荒くれ者のコンラッド男爵の粗野な感じだったところから、ヘンリー男爵の城から救出し逃げきれないと判断したコンラッド男爵が、オットーを側近に託し、大将自ら敵方に足止めをすべく立ち向かって行く場面では、カッコよすぎて何度も読み返してしまった。
これは、下手すればBLネタに使われそうな勢い。
また、オットーを育てた、頭の弱い若い修道院ジョンの存在や、オットーに本の世界の美しさを伝える、オットーと同じ名前の修道僧長オットーもまた素晴らしい。
 
ヘンリー男爵の娘との結婚の約束を、状況が逆転してもなお貫くオットーの誠実さなど美しい場面が無駄のない文体で描かれ、その分読み手によいんが深く残った。
 
戦乱の世界には、コンラッド男爵のような力のカリスマが求められ、その次の安定の世界ではオットーの知性のカリスマが求められるということなんでしょうか。
ラストのオットーと皇帝ルドルフとの対話が特に良くて、この会話一つでルドルフ皇帝がいかに賢く、人格者であるかがわかる構図になっていて、こちらも又素晴らしい。