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ルーシー変奏曲

 

ルーシー変奏曲 (SUPER!YA)

ルーシー変奏曲 (SUPER!YA)

 
ルーシーは、神童と呼ばれるほどピアノの才能に溢れ、世界中をツアーで回る有名人だった。しかし、家族からの重圧に耐えられなくなってきた頃、祖母の死を隠されたというショックで、舞台をボイコットしてしまった。ピアノをやめたルーシーは、兼ねてより望んだ失ってきた普通の学校生活を手にいれるが、虚しい気持ちが拭えない。そんななか、今や天才少年になった弟についたピアノ教師ウィルによって、再度ピアノと向き合う気持ちが生まれる。
 
持つものと持たざるものの、それぞれに悩みはあり、ルーシーはピアノの天才的な才能を持つ側の苦悩ゆえに、凡人の私としては、ルーシーの悩みの半分も多分理解できない。ルーシーの親友ですら、音楽的な感性が無いがために、ルーシーの深い部分までは入り込めていないのだ。そんな時に、ウィルという音楽教師の存在は、なんというか出来過ぎなくらい、ルーシーの心のうちに入り込んでくる。ウィルも、かつては神童と呼ばれるほどで、音楽的才能も豊かだし、洗練されている理想の男性…これで、恋に落ちない方がどうかしてるってもんだ。
人間どうし完全にお互いを理解し合える他人と出会う事は不可能に近いのに、つかの間ルーシーはウィルにその完璧な分身と恋の幻想を見てしまった。最終的に、そこには、ある落とし穴があるのだが、この他者への失望によって、自分を支配するのは自分という、ルーシーに足りなかった自我が芽生えた事は、ウィルの存在はとても重要だったろう。
 
浮気者の父を通して男性を諦観しているルーシーの親友の、ウィルを神聖視するな!結局はみんなおんなじだというアドバイスも、まるで呑み屋のママみたいな言い草ではあったが、ルーシーは、彼女がいれば安心だなぁーと、なんとなく思ってしまった。ルーシーは、自分で思ってるほど孤独じゃない。苦い失恋と、才能の物語 。