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サッカーボーイズ

 

サッカーボーイズ  再会のグラウンド (角川つばさ文庫)

サッカーボーイズ 再会のグラウンド (角川つばさ文庫)

竹井遼介は小学校6年生。ジュニアサッカーチームのキャプテンだったが、ずば抜けたサッカーセンスを持つ星川にキャプテンの座を奪われてしまった。このことがきっかけで、チームの中で気力が持てないでいる遼介に、アドバイスをくれたのは、新しく赴任した木暮コーチだった。コーチの指導によって今まで忘れていた、サッカーを楽しいと感じる気持ちが再び湧き上がってきた。この1つの流れがチームの流れ全体を変えていく。
 
サッカーのスポーツ小説。主人公が最初に挫折を味わい、そこからどんどん成長していく様がとてもわかりやすいし、内面描写も細かく描かれている。どちらかと言うと親やコーチなど大人たちの視点が多く組み込まれているため、共感したいと思う対象物が、散漫な印象になるかと思ったが、それを上回る少年たちの成長が著しいため、読んでいてとてもワクワクする。ただ小学校6年生でここまでストイックに大人のような考え方が出来る子供たちがいるのだろうかと、そこに非リアルさを感じてしまう。とは言え、『メン!』シリーズほど、登場人物たちが異様に大人っぽいという不自然さがないから、作品の質としては格段に上だろう。
 
どのシリーズもなかなかの面白さで、スポーツ小説のキモとなる場面を必ず抑えてるのも良い。例えば、新任のコーチのわかっている人がみればわかるプロ級のシュートを見て、ハッとする場面がある。しかも見抜いたのが、ライバルであるところの星川と、主人公とサッカーの上手い巧だけ。後のみんなは気がつかない。その瞬間に生まれる、3人だけが理解し得る領域にいる高揚感を、読者は一緒に体験するのだ。才能あるもの同士にしかわからない、優越感の世界の何と甘美なことか。まぁ、これはスポーツ小説に限らず、漫画では『ガラスの仮面』だって、凡人には理解し得ないゾーンでの共鳴こそが、大事なわけでその辺のツボがきちんと抑えられてるから、あー、分かってらっしゃると思ってしまうのだ。