- 作者: ローセラーゲルクランツ,イロンヴィークランド,Rose Lagercrantz,Ilon Wikland,石井登志子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/05/28
- メディア: 大型本
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リンドグレーンの挿絵といえばこの人、イロン・ヴィークランド。子供たちが感情のままに遊びまわる絵を見ていると、気持ちがふわふわしてくる独特のタッチだ。愛しいものを愛おしげに触れているさまの描写などは、本当に見ているものがその対象物を触れているかの感覚に陥るほどだ。
さて、今回はこのイロン・ヴィークランド自身の子供の頃の体験をもとにした絵本である。絵本という形態をとってはいるものの、中身はとてつもなく深刻な子供時代だ。父親、母親両方がイロンをおいて家を出てしまい、一人ぼっちのところから始まる。おばあさんのいる、エストニアのハープサル町に行き着き、楽しく美しい子供の時間を過ごすものの、戦争によって次第にその生活は脅かされて行く。親のように寄り添っていた愛犬は、兵士によって銃殺され悲しみにくれるイロン。しかし、さらに戦争はイロンの楽しい生活を揺るがしていく。祖母は、孫だけは生き残らせようと、イロンを一人船でエストニアから出ていかせるのだが…という、簡略して書いてるだけでも波乱万丈。
強いイロンだったが、最後には気持ちが悲しみの力に負けて倒れてしまう場面があり、その瞬間のイロンの黒く塗りつぶされた瞳がとにかく辛い。空洞の目とはこういうものだろうか。
まさに、長い長い旅であり、よくイロンは耐え抜いたものだと驚かされる。