児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

辺境のオオカミ

 

辺境のオオカミ

辺境のオオカミ

 

 叔父のおかげで順調な出世を続けていたアレクシオス・フラビウス・アクイラは、ゲルマン戦線で敵の策略にかかり、撤退命令を出し大敗を招いてしまった。アレクシオスの左遷先は、辺境のブリテン。ローマへの反感を秘めた部族や、わけありの部下たちに囲まれながらも、彼はその地に溶け込んでいった。だが、族長の息子クーノリクスとの友情も、彼の族長に就任と共に微妙に変わり、ついに大反乱が勃発。無能な上司のために、部族とも対立。さらに、上司の死によりアレクシオスに決断が迫られる。抗戦か撤退か! そして彼の決断はまたしても撤退だった。責任の重さにつぶされそうになりながら、あやまちから立ち直ろうとする若きアレクシオスの姿が魅力。夫をローマに、子どもを部族に殺され「互いに殺しあえばいい」と嘆く女の姿に、戦争の原点が殺し合いでしかないことを冷静に見据えることも忘れない所にサトクリフの力量を感じる。最後に、皇帝の側近となる栄誉を断り、はみだし部隊を引き受けることを選ぶアレクシオスの成長に拍手です。