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アルカーディのゴール

 

アルカーディのゴール

アルカーディのゴール

 

 人民の敵として処刑された親の子どもたちが収容されている孤児院。ろくな食べ物もなく、子どもたちは飢えと暴力の中でもサッカーを楽しんでいる。アルカーディは、みんなの中でもずば抜けてサッカーがうまく、政府の視察が来るときには、アトラクションを見せる役を果たしていた。あるとき、視察団の中に、赤軍サッカークラブのスカウトがいるらしいといううさわがたつ。だが、いつもと違う人間といえば、みすぼらしい痩せた男だけ。そして、視察の後で、彼イヴァンがアルカーディを養子にしたいと言い出した。サッカーのために自分を養子にしたと信じるが、この悲しそうな男は、食べさせてくれ、窓をわっても叱らず、彼のためにサッカーチームを作ろうとし、失敗する。自分は赤軍のエースになると信じるアルカーディ。だが、実はイヴァンの妻は、ドイツ語の教師だったために逮捕され、死んでいったのだ。二人で息をひそめて生きようというイヴァンの提案に対し、アルカーディはあくまでも赤軍入団試験への希望を捨てない。サッカーチーム作りの中で生まれた友人が推薦書を譲ってくれたおかげで、二人にはチャンスが生まれる。偽名で申し込んだというイヴァンに「なんとよべばいい?」と聞き「父さんってよんでくれるかな」といわれ、初めて微笑みを浮かべるアルカーディの姿が素晴らしい。赤軍キャプテンだった著者の父をモデルとした物語だというが、痛めつけられた二人の間に絆が結ばれていく様子がなんとも魅力。