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ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家

 

ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家

ケストナー―ナチスに抵抗し続けた作家

 

 腕がいい職人だったが、大量生産の始まりの中で一介の工員となってしまった父と母の間に生まれたケストナーは、貧しい暮らしの中で育った。しかも本当の父は一家の主治医ツィンマーマン博士だという秘密を抱えて。聡明な彼に母は、大きな期待をかける。洗濯女として、後にはよりお金が取れる美容師として懸命に稼ぎ、彼の学費とする母。期待に応え、ケストナー師範学校に進学するが、軍隊式の詰め込み教育に嫌気がさす。そんな折、第一次世界大戦に徴兵され、そこでもしごきのため心臓を悪くし、生涯にわたる反戦の意思を育てる。だが光度測定法などの教育を受ける中で、新しい学問の世界にあこがれ、ギムナジウムから大学に進むための奨学金をとり、戦後再スタートを切る。学生時代から才気をみせて記事を書き始め、注目される詩人で若手作家として育つが、ヒトラーが政権を取り、進歩的な文化人への弾圧も始まる。ケストナーの本は燃やされ、執筆も禁止される。だが、国外に逃れた友人たちが、外国でケストナー作品を出版。印税はケストナーの生活を支え、外貨獲得のため、ヒトラーもなかなか手をだせない。国外逃亡のチャンスを断り、二度も連行されながら、ギリギリのところで逃れて、ケストナーは生き延びる。ペンネームで娯楽作品を書き、だが、ナチスの宣伝のためには手を貸さないという態度を一貫して貫く。戦争末期に崩壊するナチスが道連れにする処刑名簿に載るが、映画撮影の通行許可書でベルリンを逃れ、ギリギリで難を逃れる。戦後も、再軍備に向かうドイツの中で一貫して反戦を訴えた。私生活では、マザコンで結婚はしなかったが常に愛人がいるという欠点も含めたケストナーの人物像は、立派とはいいきれないかもしれないが、だからこそ魅力的。ナチスに同調していったドイツの民衆の姿もきっちり書いているところは、さすがコードン。