児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

走れ、走って逃げろ

 

走れ、走って逃げろ (岩波少年文庫)

走れ、走って逃げろ (岩波少年文庫)

 

 第二次世界大戦下のポーランド。スルリックの家族はゲットーに囚われていた。脱出しようとして父は行方不明に、母も突然消え、8歳のスルリックはたった一人で逃げることになる。泥棒を働き、森に逃げ、時に親切な人にかくまわれ、ユダヤ人であることがバレて追い出される。ユレクというポーランド人の名前を名乗る、カトリック教徒の振る舞いを覚え、マリア像のお守りを身に着け、にせの身の上覚える。魅力的で人懐こいほほえみと、常に懸命に働くまじめさ、頭の回転の良さで、逃げる、逃げる、逃げる。けがをしても、ユダヤ人だというので手当を放置された末、片腕切断となるが、そのハンディを努力で克服して働き、居場所を作る。そしてついに戦後を迎え、ユダヤ人の孤児を救出に来たとき「自分はユダヤ人じゃない!」と叫び、本名を忘れていた。だが、やっと故郷の街で本名と、父母の顔を思い出す。ヨラム・フリードマンの実体験をもとにした物語。必死に生きようとする男の子の力と、それに手を貸すまわりの人たち(ナチの兵さえいる)人間の残酷さと、優しさが極限の中で試される戦争の残酷さを強く訴えている。