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ゾウと旅した戦争の冬

 

ゾウと旅した戦争の冬

ゾウと旅した戦争の冬

 

 カナダの介護施設に入所している老婦人リジーが、「うちの庭にゾウがいた」とカール少年に語り始めることから物語が始まる。それは戦時中のドレスデン。父が出征し、母は動物園で仕事をしていたが母を失った小象マレーネの世話に夢中になる。夜も付き添うために家に連れて帰り弟のカーリは象に夢中になる。だが、たまたま夜に象を公園で散歩させていたとき、一家の街ドレスデンは空襲を受け、3人と一匹はそのまま避難民となる。叔父の家を頼っていくが、叔父たちも避難した後で、しかもそこで爆撃した飛行機から脱出した連合国兵士と出会う。母は、怒り狂うが、兵士ペーターはドイツ語で穏やかに語りかけてきた。おぼれかけたカーリを救ったことから、母の怒りも収まるが、東からは赤軍がやってきて、その残虐さが伝わる中、連合国側に向けての逃避行が始まる。子象が注目されることでペーターへの疑惑がそらされ、リジーはペーターに恋をする。さまざまな助けのおかげで、ついに連合国側に着くが、戦闘の音に象は逃げ出し、ペーターとも別れることになる。だが、戦後二人は再会。カナダにわたっての幸せな結婚生活を送り、思いがけず、サーカスにいたマレーネとも再会する。
象という存在を使って、敵も味方も同じ人間である様子。ナチ側でも、理想が通じる相手がいたことなどを浮かび上がらせた佳作。ただ、冒頭で介護施設がどこの国かわからなかった。また、たくみに読ませるが、うまく行きすぎ。これが児童文学でなかったら、ハッピーエンドすぎるようすが批判されそう。