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生きる 劉連仁の物語(2016 中学生 課題図書)

 

生きる: 劉連仁の物語

生きる: 劉連仁の物語

 

 働いていた畑から無理矢理拉致され、農民であるのに、浮浪労働者として募集に応じたという書類を整えられ、日本に強制連行された一人の農民の物語。途中、逃亡を図って殺された者、劣悪な環境で死んだ者も多い。ついに北海道の炭鉱に送られ、使い捨ての労働者として過酷な仕事を強いられる。このままでは死ぬ! 便所の糞壺を使って、やっと脱出し、歩いて中国に戻れる希望を抱き、北海道の山中を終戦も知らずに隠れて逃げ続ける。ボロボロの状態で発見されたのは、戦後1958年のことだった。日本政府は、強制連行の事実を認めず、劉を不法滞在扱いにする。信じがたいこの態度にあきれる。そしてその対応をした当時の総理岸信介こそ、強制連行時を行った最高責任者であったことが、いっそう暗澹たる気持ちとなる。炭鉱で、高圧的な態度をとっていた日本人も、戦地に送られていく被害者として描くなど、戦争によってごく普通の人々の暮らしがどんなにむごくされるかを描いている。外務省の公文書も掲載し、事実であることを示しているが、それでも捏造とかいう人はいるのだろうか・・・