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チポロ

 

チポロ

チポロ

 

アイヌの伝説を背景とした物語。伝説は、それ自体が強いので、それをベースにしてきちんと描けば、ある程度の仕上がりは約束される気がする。そして、その最終的なデキを左右するのは、その伝説への思い入れではないか? 

チポロは、両親が早く死に、貧しく祖母と暮らす男の子だ。近所の女の子イレシュは、姉のような気持ちで、いつもチポロを見守ってくれている。あるとき、チポロを憐れんでくれたツルの神が、チポロの矢に射られてくれたことをきっかけに、狩人としての腕を磨こうと努力を始める。だが、そんな中、空飛ぶ船に乗った魔物が村を襲い、チポロが魔除けとしてイレシュに教えた言葉を唱えたイレシュがさらわれる。3年後、チポロは貧しいものに肉や魚を与えてくれるが、触れると凍ってしまう女神のうわさを聞く、その女神がチポロの教えた言葉を口ずさんでいると知り、イレシュだと確信して救出に向かう。イレシュは実はチポロと間違えられてヤイレスーホにさらわれたのだが、魔物から身を守るため、触れるとなんでも凍らせてしまう魔法をかけられたのだ。折からイレシュに触れようとして手が凍り、使えなくなったことをうらむ男が、復讐のため、魔物の砦を襲おうとしたのに乗じてチポロも砦に入り込む。そして自分が神に子だと知るが、イレシュの呪いをといてもらい共に人の世界にとどまることを決意する。この物語で繰り返し「人間の欲」の問題が出てくる。飢えの時、シシャモの恵みをえるが、その後、シシャモによる富の蓄積と貧富の差が生まれるエピソードや、汚された海に怒るシャチの神。だが、それへの解決は物語にない。人間に絶望する神オキクルミと、人間への希望をつなぐチポロの対象はどこにあるのか? 優しいイレシュの存在だけか? おもしろく読めるのだが、もう一歩中に踏み込んで伝説の世界に誘って欲しい。