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スマート キーラン・ウッズの事件簿

 

スマート: キーラン・ウッズの事件簿

スマート: キーラン・ウッズの事件簿

 

 主人公キーランは、はっきりかいていないが、たぶんアスペルガー症候群の男の子。特別支援学級で指導を受けて、まじめに社会の中で生きていこうとしている。だが、彼と母に暴力を振るう義父と、やはり乱暴な義兄がいる家庭で、辛い思いをすることも多い。ある日、知っていたホームレスのコリンさんの死体をみつける。そのそばでは、コリンさんと親しかったホームレスのジーンさんが悲嘆にくれていた。キーランは殺人事件だと思うが、警察は酔ったホームレスが川に落ちただけだと相手にしてくれない。彼が得意なのは、絵を描くこと。ジーンさんがコリンさんと言い争っていたという人のスケッチや、現場のスケッチを描き、自分なりに捜査を続ける。そして、かつては交流があったのに、母親が義父トニーと暮らし始めたことで交流が途絶えてしまった祖母にも会いに行こうとする。自分なりに、少しづつ考えながら前に進む姿は、とても魅力的。最近、こうした訓練で社会性を身に着けたり、まわりの世界を理解しようとする主人公が活躍する作品が増えているが、ひょっとすると、これは、現実に社会性がなくなってきた読者にその方が納得しやすいから? もしくは、そうしたひたむきさはアスペルガーでなければ表現できないから? 物語は、事件の解決と暴力を振るう義父が薬物売買で逮捕されることでハッピーエンドを迎える。ふと、ここで気付く。いわゆる「イワンの馬鹿」のような昔話の主人公の愚かさと素朴さが一体となったキャラが、現代のアスペルガー症候群の主人公なのかも。