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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

わたしたちが自由になるまえ

 

わたしたちが自由になるまえ

わたしたちが自由になるまえ

 

 憲法記念日です。人権が失われていた国を舞台にした作品を紹介しましょう。

ドミニカ共和国の独裁者打倒の歴史を描いた作品。アニータは、もうすぐ12歳。少し前まで、広い敷地に祖父母や叔父叔母など一族が一緒に住んでいたけれど、少しづつアメリカに行ってしまい、徐々にさびしくなってきた。アニータが住むドミニカは、ボスが支配しているが、ボスがどんなにすばらしいかをいつも教えられてきた。だけど、最近なにかがおかしいことに気付いてきた。お父さんやおじさんは、ボスに対抗しようとしているらしい。秘密警察の捜索があり、一家をまもるためアメリカ大使館の家族が隣家に引っ越してきてかばってくれるようになった。だが、大使のパーティーにボスがやってきて、姉のルシンダに目を付けた。無理に愛人にされるのを避けるため、ルシンダも急いでアメリカに逃げることになる。ついにボスを倒す時がきたが、味方になるはずの将軍が態度を翻したため、父と叔父は逮捕され、アニータたちは大使館のクローゼットに隠れて暮らすことになる。大弾圧がはじまり、街を戦車が走る。父たちの消息は不明。だが、アニータと母は、アメリカとイタリア大使館の連携プレイで、ヘリコプターで脱出。アメリカへの亡命を果たすが、父たちは処刑されてしまったことを知る。作者は、子ども時代にアメリカに亡命し、叔父の処刑を経験している。混乱の中でも、パーティに心をときめかしたり、男の子に恋をしたりと思春期の日常があるようすがいい。大人でもドミニカの歴史は知らないが(私は知らなかった)、独裁国家の中で暮らす普通の女の子の姿として読むことができるところはいい。