児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

僕は上手にしゃべれない

 

僕は上手にしゃべれない (teens’ best selections)

僕は上手にしゃべれない (teens’ best selections)

 

 気になる雰囲気のタイトルだが、読んでがっかり。吃音の悩みを抱えた主人公悠太が主人公。思うように言葉がでないつらさ、そのために人と交われない切実さは伝わってこないことはない、実際に著者が吃音で悩んでいたという。だが、実際に吃音の著者が吃音の主人公を描いた『ペーパーボーイ』と比べると、リアリティが薄い。『ペーパーボーイ』で、言いやすい音に、懸命に言い換えたり、少しで言いやすくしようと長音でいったりとディティールが描かれていて、必死さが一層つたわってきた。この作品にもそういう個所はあるが、断片的で、『ペーパーボーイ』の予備知識がなかったらわかりにくかったと思う。また、謎のとっつきにくい同級生の美少女古部さん、(この後ネタバレ)最後に過去に吃音で苦しみ、親にもクラスメートにもいじめられたから、悠太だけに執着したとわかるが、みんながうらやましがる美女設定。これ、美女じゃないといけないわけ? また、おねえちゃんが「がんばれ」を繰り返し、弟のために部で浮いたり「だめなら私が悠太を養ってあげる。」というけど、これもアリか?『ワンダー』の弟を大切に思いつつも、時に重荷に感じる姉のほうが、リアルで思いやり深く感じる。実際には、こういう思いやり深いお姉さんがいるのかもしれないけど、別世界の住人みたいで、少なくとも私は共感できない。小さいころからそれなりに友人がいたり、お姉ちゃんもたまには不満もらしたりという、ごく普通の生活をベースにして主人公の悩みを描いて欲しかった。リアリティをかんじなかったけど、まさか、これ自伝しゃないですよね?