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霧の中の白い犬(2017 小学校高学年 課題図書)

 

霧のなかの白い犬

霧のなかの白い犬

 

 ジェシーが住むまちには、徐々に移民が増え、安く働く彼らのせいで、お父さんは仕事も家もなくした。今、アパートに住んで、お父さんはフランスに出稼ぎに行っている。いとこのフランは、昔は仲良しだったけど、両親が離婚したせいで、名門の寄宿学校からジェシーの学校に転校してきて、すっかりお高くとまった感じになってしまった。二人のおばあちゃんは、いつもやさしいけど、最近、ちょっと変。お料理のやり方や、運転している道が突然わからなくなる。そして、突然犬を飼い始めた。真っ白なジャーマンシェパードの子犬だ。前から犬を飼ってみたくてたまらなかったジェシーは、とてもうれしい。親友のケイトは、車いすだが、運動神経抜群で、勝ち気。ジェシーがおばあさんのことを心配する気持ちもわかってくれるが、フランが差別的な発言をしたことに、火が付いたように怒る。そして、おばあちゃんが倒れ、ジェシーには悩みが増える。何かにおびえるおばあちゃん、いやな仲間とつるむフラン。そんな中、歴史の授業で、ドイツの収容所ダッハウから生還したクラスメイトベンのおばあさんの話を聞く、病人や障害者や高齢者を殺し、ユダヤ人を苦しめるためだけに、全てのユダヤ人のペットを殺し、その後、ユダヤ人も殺していった。おばあさんは、その最後に、自分が大切にしていた白い犬をこっそり救ってくれた獣医と、戦後、その犬を返しに来てくれた女の子の話をしてくれた。その時は、あやまる女に子に罵声を浴びせたが、後になって、その小さな好意が、どんなに勇敢であったか、帰ってきた犬のおかげで、どんなに救われたかを実感して後悔する。このベンのおばあさんの子犬を救った女の子こそおばあちゃんであったことがわかり、二人は再会する。あまりにひどい言動ばかりする仲間にたえられなくなって、やっと立ち返ってくれるフロン。外国人労働者に不信の目を向けるジェシーに、自分もフランスで外国人労働者であることを語ってくれる父。冒頭と最後に、そして途中にも挟み込まれる昔話。多くの問題を入れながら、かなりうまくまとめている。児童文学の中で、こうした危機感をもたなければならないのが、今という不安な時代であるのが、ちょっと怖い。