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ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち

 

ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち (世界傑作童話シリーズ)

ぼくたちに翼があったころ コルチャック先生と107人の子どもたち (世界傑作童話シリーズ)

 

 ポーランドに住むユダヤ人ヤネクは両親が、そして祖母が死んだ後、育ての親だったミラ姉さんが、生きるための結婚をした。義兄にうとまれて入れられた最初の孤児院で足を折られ、たった一つの俊足というプライドをうしないヤネクは荒れる。だが、姉さんが2度目に見つけてくれたコルチャック先生の孤児院は違っていた。清潔な室内、子どもたちの自治。世話をしてくれる先輩。とはいえ、自分を追い出したミラ姉さんへの怒りは消えず、ヤネクは素直になじめなかった。だが、常に穏やかに子どもたちを見つめるコルチャック先生に、徐々に心を開くようになる。ヤネクの心の変化をたどる中で、自然に「孤児たちの家」の様子やコルチャック先生の考え方がわかってくる構成になっている。ヤネクはどう変わるのか?という興味で読ませるが、ユダヤ人の迫害が強まり、姉は、ヤネクにパレスティナにともに亡命しようと訴えに来る。はたしてヤネクはどういう結論を下したのかが明確に書いていない結末や、最後にコルチャック先生自身が生い立ちを語ってくれる、というのが、ちょっと説明っぽくて不満。史実では、この1年ほどあと、コルチャック先生は子どもたちとともに死に向かって歩く。