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凍てつく海のむこうに

 

凍てつく海のむこうに

凍てつく海のむこうに

 

 ソ連の侵攻の前に、東プロイセンから民間人や傷病兵を船でバルト海経由で脱出させるハンニバル作戦が図られる。避難民の一人ヨアーナは看護師の経験があり絶えずけが人を助けようとしている、エミリアポーランドのおとなしい少女で、彼女を襲ってきたロシア人から助けてくれたフローリアンをひたすら尊敬して慕っている。フローリアンは、できれば一人で行動しようと画策しているがエミリアを振り切れずヨアーナの一行に合流することになる。そして脱出船に乗る兵士アルフレッドは、自分の重要さを自負しているが、その言動はなにかおかしい。4人とも秘密を抱えている。その秘密が徐々にあきらかになるという構成が逃亡の緊迫感とからまり、一気に読み進めずにはいられない。それにしても追跡してくるソ連兵が手あたり次第レイプし、奪っていくさまは恐ろしい。個々の兵士は素朴な農民だったりしたはずなのに、それを人間以外のものにしてしまう戦争の恐ろしさを感じる。そして、船にたどり着いたものの、1万人余を乗せた船は、魚雷を受け沈没。救命艇は足りず、氷の海は、その9割を飲み込んでいくという忘れられた実際にあった歴史的な事件をよみがえらせる。ちなみにヨアーナは、同著者の「灰色の地平線の彼方へ」

 

灰色の地平線のかなたに

灰色の地平線のかなたに

 

 の主人公リサのいとこということが最後のころにわかり、この二つの物語がつながる。二人そろって、過酷な生を生きることになった戦争と戦後を思わずにはいられない。