児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

はるかな旅の向こうに

 

はるかな旅の向こうに

はるかな旅の向こうに

 

 シリアのボスラという都会に住むオマルは12歳。勉強ぎらいだけど、めはしのきく男の子だ。金物屋の手伝いで家にお金を入れ、観光客相手の絵葉書販売で自分の小銭を稼いでいる。いつか商売をするのが夢だ。姉さんのエマンは頭が良くて、学校の先生になるのが夢。兄さんのムサは脳性麻痺で体は不自由だが頭の回転は抜群で、反政府の活動に密かに関係する。父さんは政府の仕事をしているから、政権は正しいと信じていて、母さんは家で家事をしていて基本的に父さんには逆らわない。弟のファドと妹のナディアはまだ小さい。シリアの国内は荒れ始めている。政府批判の落書きをした高校生が逮捕され、拷問・処刑されたことがきっかけで反政府デモが頻発。体が不自由なムサまで、デモに発砲する政府の映像をスマホで撮影するなど活動をしていて、助けに行ったオマルも巻き込まれて銃撃戦から逃げる体験をする。家が破壊され、田舎へと逃げるが、そこでも父親は逮捕の危険を知らされ、国境を越えてヨルダンに渡り難民となる。だが、難民キャンプの生活に希望はない。父親は逮捕の情報はムサについてだったと知ると激怒して、自分は常に忠誠を尽くしたとシリアに戻るが、結局殺される。オマルは工夫して小さな商売をはじめて家族を助ける。そんな中ナディアが病気になるが、それが契機となり一家にはイギリスで医療を受け、難民としての受け入れの可能性が開かれる。勉強嫌いというが、気持ちが素直で常に新しいことにチャレンジして道をひらいていくオマルは、ちょっとできすぎぐらいだけどとても魅力的。さいご、イギリスで何が待っているかという期待と不安で終わらせ、その答えは読者が難民をどう考えるかにかかっていることを示すのは、いかにもこの作者らしい。シリアについて予備知識がなくても、あんなことがなぜ起こったのかも良く分かり、そうした意味でもおすすめ。