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いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて (2018 課題図書 高等学校)

 

いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて (海外文学コレクション)

いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて (海外文学コレクション)

 

 フランスに住んでいたユダヤ人フランシーヌは、9歳の時にユダヤ人だというだけで母と共に捕まり収容所に送られた。だが、運がいいことに(!)父親が出征して捕虜になっていたため、捕虜の家族も守られるジュネーブ条約のため、親子一緒に比較的待遇がいい収容所を転々とする。だが、ついにドイツに移送、ベルゲン=ベルゼン強制収容所で飢えと病気が蔓延する中で絶望的な状況に追い詰められる。絶えず「お腹がすいた」と訴え続け、寒い中でもきちんと顔や手を洗うように言う母親を恨むが、ある日気力を失って汚れきり、汚れで腐敗し、シラミまみれの頭髪で頭が腐りかけた親子を見る。まわりがなんとか体を洗って助けようとするが、母親は助からなかった! 連合軍が近づいてくると期待が高まるが「移動」として電車に詰め込まれ、引き回される。ずっとリーダーのように頑張ってきた母親がついにここで倒れ、チフスを発症、絶望的なギリギリの状態で12歳でソ連軍に救われる。そしてやっと捕虜収容所から解放された父親が必死に探しに来てくれるが、母親はチフスの後遺症で頭が混乱して狂気の発作を起こす状態になっていた。生きたい、食べたい、かわいがられたいという必死の子どもの思いと、それをズタズタにしていく人間の行為。戦後、体験をわかってもらえない絶望。必死に子どもを守ろうとした母親、妻子をあきらめずに探し続けた父親の家族の絆が素晴らしいが、中にはせっかく再開できたが壊れた家庭もあるとのこと。心を破壊する戦争の恐ろしさを思う。