児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

フローラ

 

フローラ (SUPER!YA)

フローラ (SUPER!YA)

  
 フローラは前向性健忘症。10歳の時に脳に損傷を受け、それ以前のことは覚えているが、それ以降のことは記憶することができない。もう17歳だけど、自分が17歳だということもすぐに忘れてしまう。だけど、親友のペイジの彼ドレイクと海辺を散歩して、すてきな彼にキスされた記憶は消えなかった。ドレイクはその翌日にイギリスを出て北極に近いスヴァールブルに留学に旅立ってしまったけど、フローラは忘れなかった。そんな折、兄さんのジェイコブがパリで病気で倒れる。重傷で両親は駆けつけることになり、十分な用意をしてペイジに泊まりに来てくれるように頼んだ。ところが、直後、ペイジはフローラとドレイクとのことを知って激怒して絶交を宣言し、フローラは一人で留守番をすることになった。一人で必死にドレイクとの記憶にしがみつくフローラは、ドレイクにメールを出す。フローラを思うメールが返ってきたことに思いを募らせたフローラは、たった一人でドレイクのいる北極近くの地まで行くことを決意する。留守用に置いてもらったクレジットカードで飛行機を手配し、自分が何をしようとしているのかのメモをつくる。たえずメモを作り、手に重要なことを書き、スマホで写真を撮っておくことを繰り返すフローラ。そしてスヴァールブルについにたどり着く。何度も記憶を確認するフローラ。会ったことのある人が、初めての人になってしまう不安。他の人と同じになりたいという願い。10歳の心と17歳の心が同居するようなフローラの言動にハラハラしながら、大丈夫なのか? とフローラを見守る思いで物語の先を読まずにいられなくなる。物語は思いがけない方向に展開し、フローラが10歳の時に本当は何があったのかが明かされる。ややご都合主義的なところもあるが、女の子が大人になろうとする物語としても読める迫力は魅力。