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はるかな国の兄弟

 

はるかな国の兄弟 (岩波少年文庫 85)

はるかな国の兄弟 (岩波少年文庫 85)

 

 物語は、弟カールの一人称で語られます。病気のため余命短いカールは、自分とは正反対に強くてやさしくてなんでもできる兄ヨナタンのことを、心から慕っています。兄弟の幼いときに父が消息を絶っているため、ヨナタンは兄であり父でもあるのです。ある晩、死への怖れを話すカールにヨナタンは、死んだ人の魂はみな、星の向こうにあるナンギヤラの国に行くので、そこでまた会うことができるのだと言って聞かせます。ところが、ずっと長生きするはずだったヨナタンの方が、火事からカールを助け出そうとして命を落としてしまうのです。
ほどなくナンギヤラの国で再会した兄弟は、暴君テンギルの圧制と怪物カトラによって命を脅かされている野バラ谷の人々を救うべく、戦いに挑みます。
けれども、臆病なカールはもちろんヨナタンも、けっして望んで戦うのではありません。「人にはやらなければならないことがあって、それをしなければ、もう人間じゃなくて、けちなごみくずでしかなくなる。」というヨナタンの正義感であり、「もしぼくたちが、こんなにいつも強くて勇ましくなっていないですんだら、どんなにすてきだろう」というカールの平和への強い願いからなのです。いつも兄のヨナタンに助けられてばかりのカールですが、最後の最後に、ヨナタンに代わって初めて勇ましい心を発揮します。
冒険物語として高学年から楽しめます。大人は、兄弟が新たな死後の世界に光を見るラストにいろいろ考えてしまいますが、子どもの方が素直に兄弟の幸せを信じられるかもしれません。