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長くつ下のピッピ(リンドグレーン・コレクション)

 

長くつ下のピッピ (リンドグレーン・コレクション)

長くつ下のピッピ (リンドグレーン・コレクション)

 

 これからの子どもたちにもリンドグレーン作品を楽しみ続けてもらえるように、「今の子、そしてこれからの子が手に取ってくれるおしゃれな本を」という思いで刊行が開始されたリンドグレーン・コレクションの第1弾。
挿絵は、スウェーデン語初版当時(1945年)のイングリッド・ヴァン・ニイマン。全く古びることなく、ポップでむしろ新しい。古びないのは、リンドグレーンのユーモアあふれる文章もしかり。菱木晃子の訳文がテンポよく、ピッピの思うままに繰り出されるしゃべり倒しが一段とおもしろくなっている。菱木訳は2007年にも、リンドグレーン生誕100年記念版『長くつ下のピッピ ニューエディション』(ローレン・チャイルド絵、岩波書店、2007年)が出ており、今回はそれをベースに、「個性的な挿絵と横組みのレイアウト」の制約があった部分など全体を見直したとのこと。
1964年の大塚勇三訳当時からは、時代とともに言葉が古くなったり、逆にそのままでも通じるようなったりした言葉は、すでに2007年版で見直されている。たとえば、ピッピがクッキー生地を入れるのは、「かまど」から「オーブン」に、「コーヒー茶わん」は「コーヒーカップ」に、「まるい味つけパン」は「シナモンロール」になど。それから、「黒人」と言う表現は削除するなどの配慮もされた。一方、「「掛け算の九九」を、大塚勇三が「竹さんの靴」、菱木晃子の2007年版で「はげさんのくず」、今回は「かかさんのコツ」と訳していて、ピッピ得意のだじゃれを日本語にするための工夫(苦労)が見られる。
ところで以前勤めた小学校で、ローレン・チャイルド版が4年生の女の子たちにブームになった。「続きはある?」と聞かれ、岩波少年文庫版(大塚雄三訳、桜井誠絵)を見せたら、「ええー、なにこれ、全然ちがう」とがっかりされたことがあった。私などは、こっちが”本当”のピッピなのに!くらいの気持ちだったが、ローレン・チャイルドのピッピは都会的でおしゃれな感じで、確かに全くちがうピッピだ。
しかし、この新装版「リンドグレーン・コレクション」なら、当時の4年生もきっと喜んで手に取ってくれるにちがいない。