児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

月の森に、カミよ眠れ

 

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

 

 朝廷の支配が全国に行き渡る古代。狩猟採集と雑穀の栽培で暮らす奥地の小さな村も、その流れに呑まれようとしていた。カミが人間のそばに住み、時に人間と通婚する世界が終ろうとしている中で、人間に不利益をもたらす力はオニとして忌み嫌われ、利益があれば祭られるものにかわっていく。その端境期にむらのカミンマ(巫女)となったキシメと、その村に住まう神の子であるタクヤの絆。そこに田を拓くために、カミと闘い境界の沼を神から取り戻すためにやってきたナガタチもまた、タクヤとお同じく人間の女と神の間の子であったが、母は弱くカミを恐怖して早逝し、他人と違う体の大きさや力を疎まれながら成長してきた。キシメに惹かれるナガタチ。カミがオニへと貶められていく時代の変わり目を、小さな山奥の村を舞台に描きながら普遍性を感じられるものに描いているのはさすが。最後、米を作るようになった村人が、結局その米を口にできない様子に、米を作ることで村が救われると信じた村長たちの希望がつぶされたのをみるようで悲しい。