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木の中の魚

 

木の中の魚 (文学の扉)

木の中の魚 (文学の扉)

 

 アリーは文字を読んだり書いたりすることがうまくできない。だけど、そんな恥ずかしいことを知られるわけにはいかないから、ふざけたりさぼったりしているふりをしてごまかしているが、そのために常にトラブルにまきこまれている。産休に入る先生にきれいな花のカードをあげたがそれがお悔やみカードだったため、校長からも厳しく注意される、だが読めないからわからなかったとどうしても言えない。アリーの頭の中にはいろいろなイメージが渦巻き、クラスでも孤立しがち。だが産休代替で来たダニエルズ先生は、アリーが必死で隠してきた秘密に徐々に気付き始める。アリーの絵や発言をほめてくれる先生だからこそますます隠したいのに。実は大好きな兄トラヴィスも同じ悩みを抱えている。世界一のカップケーキ屋を目指す勝ち気なキーシャ、給食の無料切符をもらっていていつも古い服だけど冷静で頭がいいアルバートという新しい友だちができるものの、クラスのボスジーンから敵視され、それ以外の子からはシカトされるのはなかなかつらい。あきらかに多動症と思われるオリバーも自然にクラスに溶け込ませ、アリーに新しい道を切り開いてくれるダニエルズ先生はまさに先生の理想だろう。歴史上の有名人を例にしてアリーの難読症が大きな可能性を秘めていることをクラスに説明してくれるが、クラスの仲間にも理解してもらえるというのは、とても大切だと思う。嫌味なジーンが、厳しい母親に叱られているシーンがチラリと出てきて、彼女もまた一種の被害者であることをみせてくれるなど、よく全体が考えられている。個人的には、新しい靴ひとつ買えないのに、気負わずに冷静に「だから?」と対応するアルバートくんが好きです。