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奇跡の一本松―大津波をのりこえて

 

奇跡の一本松―大津波をのりこえて

奇跡の一本松―大津波をのりこえて

 

 東日本大震災から丸7年がたとうとする頃、ある母親から「この絵本をどう受け止めていいのか、いまだにわからない」と手渡されました。陸前高田出身のその方にとって、描かれている土地も人々もあまりに身近すぎて、現実と虚構、現在と過去の境い目に自分自身が混乱してしまうので、わが子にも読めないでいる、というようなことでした。


出版は震災後半年という早い時期。話は、2011年3月11日大津波に襲われた岩手県陸前高田市で、奇跡的に流されなかった一本松が人間の言葉で語る形で始まる。古来の人々が苦労を重ね高田松原の景勝をつくり上げた歴史と、繰り返された津波の被害、そして今回の震災後、松原を復活させる活動が始まっていることが、つづられていく。
先ほどの方の言葉を意識しながら読んでみると、2011年大津波の直後の場面、一本松の「おおーい、だれかいねえのがー?」という叫びで始まり、しばらく擬人化された語りが続くのに、江戸時代に松の植樹が行われる過程あたりから、一本松の言葉とも客観的な記述ともとれる書き方になっているのが、混乱の原因かと考える。


あとがきで著者は、「二度と繰り返してはならない悲劇と教訓を」子どもたちに伝えたかったと書いています。それは、「高台に住め」という先祖の教えを忘れ、防波堤を過信して平野に住宅を広げていった人々の暮らしを差しているでしょう。それを、一本松の擬人化で語るのは難しいのではないかと感じました。人間の力では止められない自然災害であることと、人間の暮らし方が被害を大きくしてしまったということ。悲しみ、辛さ、後悔を乗り越えて、奇跡の一本松に希望をみる人々の思いを伝えるのは、人間からの目線に一貫した方がよかったように思います。