児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

風を見た少年

 

風を見た少年

風を見た少年

 

 C.W.ニコル氏が、夢で出会った名もない少年(「あいつ」と呼んでいる)から聞いた話として綴る物語。
ある国に、風を見たり虫や動物の言葉がわかったりする少年がいた。あるとき、強い怒りの思いでにらんだ物を破壊する力に目覚め、それを科学者たちの前でやって見せたところ、国家征服を企むブラニック大佐に悪用されそうになり、風を見る力で空へ飛びたち逃げる。すると、少年の魂はその国の5千年前に飛び、黄金龍の民と呼ばれていた部族の若者の体内に入り、洞窟族との対立に巻きこまれる。動物をも巻きこむ争いに強く反対する気持ちを抱いたとき、少年の魂は若者から抜け出して現代に戻る。その後1年の時がたっており、国王と前大統領を暗殺したブラニックが政権を握っていた。戒厳令が布かれる中、黄金龍の民のもつ青銅の短刀を腰に差したままだった少年は、大統領の特別軍事警察である金蛇隊に連行される。そして、その短刀の国宝級の価値に気づいた科学大臣の自宅に軟禁される。その大臣は原子力を専門とする科学者で、開発した飛行船のテスト飛行に少年を同船させ、光線砲で小さな島を爆撃してみせる。大成功を知ったブラニック大統領は、次の標的として中立国である隣国を定め、原子爆弾の開発を大臣に命じる。大臣の目の奥にその恐ろしい武器を読みとった少年は、なんとかして阻止しなくてはと行動を始めるが、内戦の中で銃弾に倒れてしまう。魂となった少年は、大統領の体に入って自ら飛行船を操作させ、宇宙高く飛び上がり爆破させるのである。
「あいつ」の内面世界が語られる冒頭は入りこみづらいが、反戦反核、奇跡の生命の星である地球を守る人間の責任、見えないものの存在を信じることといったテーマは、明解に伝わってくる。
この本を私にくれた祖父は、24年前の今日、入院先で阪神淡路大震災に遭いました。何となく近づきがたい雰囲気のあった祖父に、唯一くれた本がなぜこれだったのかを聞けなかったのが残念です。でも、C.W.ニコル氏が日本に住んで8年の時に日本語でこれを書かなければと決意したように、祖父にも伝えたい思いがあったのだろうと今は思います。