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アイヌの昔話 フキノトウになった女の子 (イソイタク 1)

アイヌの昔話 フキノトウになった女の子 (イソイタク 1)

     文:寮美千子 絵:鈴木隆

     発行所:公益財団法人 アイヌ文化振興・研究推進機構

     発行日:2014年3月28日

 

表題作の、天上の女の子がアイヌの国の美しさに魅せられて地上に降りていく冒頭は、「クナウとひばり」(瀬田貞二再話、『おはなしのろうそく20』東京子ども図書館)を思い起こさせる。この女の子は、喜んで踊りまわるうちに強い風を起こしてしまい、地上はめちゃくちゃになる。その戒めとして六重の地獄へ落とされ夏を六年冬を六年過ごした後(アイヌでは、「六」がたくさんを表す)、地上に上がれたらフキノトウになっていた、という物語。ほかに、大きな木のカムイが、猟の豊作についての祈りをいい加減に行った男ではなく、きちんとお礼の祈りも行った男のために舟となり交易もうまくいくように見守った「舟になった木のカムイ」。シマフクロウのカムイの妹が魔物に見初められさらわれるが、勇敢な男に助け出され結ばれる「魔物にさらわれた女の子」。「村を守った夢のお告げ」では、ある男の守り神が、化け物の船が襲ってくるという予言を夢で見て(夢を見させたのは、守り神をさらに見守る守り神!)、男に夢でそれを告げて災いから守る話。全部で4話。
アイヌでは、動植物や自然現象、病気や災害、人間が作った道具までも「カムイ」=神と呼び、畏怖の念を表す。昔話は、様々なカムイ自身が語る形や、語り手が昔聞いた話という形で、一人称で語られる。結句として「と、〇〇は語りました。」と言うことで、聞き手は現実の世界に戻るようです。