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絵のない絵本(アンデルセンの童話4)

 

絵のない絵本 (アンデルセンの童話 4)

絵のない絵本 (アンデルセンの童話 4)

 

 貧しい画家の若者のもとを月が訪れて三十三の短い話を語って聞かせる、アンデルセン流の「千一夜物語」。貧しい暮らしも華やかな成功も知っているアンデルセン自身の人生が、色濃く投影されている。観客にけなされて自ら命を絶ってしてしまう役者の話、本を批評される若い作家の話には、自身が役者や戯曲作家としては花開かなかったこと。ドイツ、フランス、イタリア、グリーンランド、中国、アフリカ・・・と様々な国が舞台に出てくるのも、旅の多かったアンデルセンならでは。幼い子ども、死者、花や鳥などを主人公にして、小さくて誰も気にしないような存在のささやかな思いを描いていくところは、月の見守る姿がアンデルセンにも思えてくる。
ふり仮名があって訳もやわらかいが、子どもが自分で読んで理解するのは難しい。人生経験を積んでから改めて味わいたい作品。アンデルセンと同じデンマークの画家イブ・スパング・オルセンの挿絵は、とても良い雰囲気で合っている。