児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トウジュ

 

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ

リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ

 

 沙弥は、マレーシアからの帰国子女。しかも中学二年9月からの転校で憂鬱だった。友だちができなかったらどうしよう? 幸い、さっぱりした朋花ちゃんとは仲良くなれたけど、どこのグループにもまだ入れないでいる。そこに学校でも有名な中学三年の図書委員、督促女王佐藤莉々子から呼び出しを受けてしまった! 恐る恐る本を返しに行くと「ギンコウ」に付き合えと命令される。えっ、銀行? なぜ? 商店街を歩きながら、時々メモをとる莉々子。しかも銀行は通り過ぎる。わけがわからなかった沙弥だが「ギンコウ」とは「吟行」つまり、短歌を作るために歩くことと知ってびっくり。興味を惹かれて、今後の同行を了承するが、学校でも変わり者の莉々子と仲良しだと思われたらクラスで大丈夫か? クラスに誘いにきてくれた莉々子を友だちにはメイワクだと言ってしまう。だが、図書室の七海さんに励まされて、気付いた。自分は莉々子と短歌が大切なことを。そして、もう一人、転校前から気になっていたクラスメートの藤枝港。なぜか給食を食べない彼には何か秘密があるみたい。変わったタイトルの種明かしは読んでからのお楽しみ。時折混じるマレーシア語がいい味を出していて面白い。ただ、これがデビュー作、という作者のためか、ちょっとわかりにくいところもあった。たとえば七海さん。これは下の名前のようだが、中学生が学校図書室の司書を下の名前で呼ぶだろうか?(かなり親しくなったり、影で呼ぶならともかく)。七海さんの初登場の時、これ誰? と一瞬迷った。また、港の給食を食べない秘密についても、ここまで中学生が決心するのかな? それなら、それを納得させてくれる情報をもうちょっと書いて欲しかった。この作品は、映像化かマンガの原作に向くのではないだろうか? 画で情報を補うと、アイディアがいいから映えると思う。まだ若い作者なので、次作が楽しみです。