人間だって空を飛べるーアメリカ黒人民話集

人間だって空を飛べる―アメリカ黒人民話集 (福音館文庫 昔話)

 動物民話、冒険物、怪談話、実話を含む奴隷物語の４つに章立てされている。
編者あとがきや作品解説を読むと、どの話にも、奴隷として連れてこられたアフリカ系アメリカ人が、自分たちの言語も文化も人間としての権利すらも否定される生活の中で語り継いできたという重く苦しい背景を思わずにいられません。弱者が強者を魔法や知恵でやっつける、それは心からの痛切な願いです。書名にもなっている「人間だって空を飛べる」で、自由を手にできた空を飛べる人たちと空を飛べなかったけれどその様子を語り伝えた人たちのどちらにも、深い悲しみを感じます。一方で、苦しい現実がうそのような軽みやユーモア、頼れる長老のような語り口に安心感を感じさせてくれるような話がいくつもあります。逃亡奴隷である祖父の語りを聞いて育った編者だからこそなのでしょう。読み書きを禁じられても、想像すること語ること、奴隷の歴史を語り伝えること、そしてそれらを子どもたちが聞きたがることは決して止められなかったのだと、そこに人間の強さと生きる希望が見えるようです。