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コウモリー地下実験室からの報告

 

コウモリ―地下実験室からの報告 (科学の本)

コウモリ―地下実験室からの報告 (科学の本)

 

 著者は、山口県秋吉台科学博物館学芸員となって初めての洞窟探検でコウモリにすっかり魅せられてしまった。洞窟に地下実験室をつくってしまうほどののめりこみよう。初探検の日から25年近く、文献にあたり根気強い観察を重ね、コウモリの生態を解き明かしていった成果を本書にまとめた。解明できていない部分もありそう記している。
研究のきっかけは、コウモリの「へんてこりんな」顔だと言う。確かにブタの鼻に飾りがついたような顔、馬のような顔、ウサギのように大きな耳をしたものなど、さまざまな顔に驚く。挿絵の薮内正幸氏がそれを緻密に描いており、少々ゾクゾクしてしまう。コウモリが高い声(超音波)を出して飛ぶことはよく知られているが、その声をよく響かせよく聞くための「へんてこりんな」顔なのだという。またコウモリの名は、川原の昆虫を捕食するために群れを成す姿から「川守」がなまったものだとか。

洞窟に地下研究室をつくり観察を続けた結果コウモリの秘密の産室を発見し、感激とともに聖域を冒してしまったような感覚をもつ筆者。これらコウモリの生態を通して、自然界の食う食われるという循環を守ること、そのために多様な生物が暮らせる自然を守ることの大切さも訴えている。