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怪談ー小泉八雲怪奇短編集

 

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)

 

 小泉八雲が著した複数の怪異談集から19話を選び収めてある。
風景が美しく語られる文章で、怪しくも美しい映像世界が目に浮かぶ。「幽霊滝の伝説」「やぶられた約束」など、おどろおどろしく血生臭い描写もあるが、ただ怖いのではなく、こういう怪談は文学だと思える。
壮大で特に印象深いのは「果心居士」(かしんこじ)。地獄絵の掛け物を示しながら、人々に因果の法、仏の教えを説く老人果心居士がいた。織田信長の家臣荒川は、その絵の素晴らしさに魅せられた主君のために、老人の百両の要求を拒み切りつけて掛け物を手に入れ献上するが、開いてみると絵は白紙。荒川は処罰を受ける。しばらくたち、死んだはずの果心居士のうわさがたつ。荒川の弟が兄の恨みと再び老人を討つが、老人の首と死体は消えてしまう。ひと月後、信長の屋形に果心居士が現れ、信長を討ったばかりの明智光秀が歓待する。老人は酒宴でもてなされるうち、お礼に一芸をと広間の大屏風に描かれた湖の小舟を手招きして呼び寄せる。そして、それにとびのると絵の中に消え去ってしまい、二度と姿を見せなかった・・・という話。