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風に向かっての旅

 

風に向かっての旅

風に向かっての旅

 

父さんは戦死、そして力を落とした母さんも死んでしまった。おまけに故郷はもうチェコに併合された。なにもかも無くしたベルントをお母さんの姉さんカルラおばさんが引き取ってくれた。二人は必死に国境を越えて、なんとかオーストリアに入ったが、電車は動かない。おばさんはウィーンに行くというけれども、そこで足止めをくらってしまった。気が強くて自分の意思を通してみせるカルラおばさん、そこに住んでいて仲良くなったポルディとニーナ。そしていつも追われているのに、ピシッと身なりを整えた不思議な魅力をたたえた男マイヤーさん。ロシア兵の姿や、森で見つけた死体、優しそうな善意の裏にある金のやり取り。見なくてもいいものを見せられながらも、どこかに旅立つあこがれに駆り立てられる主人公の姿が切ない。