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屋根裏部屋の秘密

 

屋根裏部屋の秘密 (偕成社文庫)

屋根裏部屋の秘密 (偕成社文庫)

 

 ゆう子と直樹の物語4作目で最終作。主題は生体実験や細菌兵器開発を行った731部隊だ。ゆう子のはとこであるみすずの祖父の死から物語は始まる。みすずは両親を早く亡くしたが、裕福な祖父の家で何不自由なく育ってきた。祖父が死ぬ間際にみすずを呼んで、みすずにゆだねた別荘の屋根裏部屋にある書類の取り扱いを巡って物語は進む。ゆう子が別荘で見た白い服の少女や、屋根裏部屋への足音などオカルト的な要素も交えながら、祖父が731部隊で細菌兵器の実験をしていた証拠書類をめぐり、それを利用しようとする製剤会社、抹消しようとする同じ部隊にいた忠男などの動きの中、最後は直樹が書類を救いだして現代史研究者に届ける。日本の加害責任を取り上げた作品とのことだが、それにしては「あんな優しいおじいちゃんが、そんなひどいことしたなんて信じられない」「でも戦争中はさからえなかった」みたいな流れでまとめられては、何がそんな狂気をおこしたのか?次回はどう防げるのかがわからないのでは? 助けを求めてあらわれる犠牲者の少女リィホァにしても、ゆう子はリイホァの味方のように描かれているが、まぎれもなく加害者としてリィホァに真剣に許しを請う側じゃないの? 『あのころはフリードリッヒがいた』のような、自分が悪に手を貸した罪を犯したという痛恨にあふれる作品は、日本ではやはり難しいのだろうか。