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バンヤンの木 ぼくと父さんの嘘

 

バンヤンの木 ぼくと父さんの嘘

バンヤンの木 ぼくと父さんの嘘

 

 大好きな父は癌で寝たきりで、もう意識もしばしばもうろうとしている。それだけでもビラルにとっては大変なのに、街がおかしい。ずっとみんなで仲良くやってきたのに、イスラム教徒とヒンドゥー教徒の間が対立してピリピリしている。兄さんのラフィークまで父さんと喧嘩して戦うんだと言って出ていった。ピラルの望みはただ一つ。父さんの最後の日々を穏やかにすること。祖国インドがまもなくインドとパキスタンに引き裂かれることを知らせないことだ。友人たちの協力を得て、ビラルはやりとげようとする。だが、対立は日に日に激化する。もう何年も薬を届けてきた医者のドクトルジーと共にいつものように村にいくと、スパイとして外部から来た男にとらえられてしまう。二人を助けてくれたのは、いつも本をビラルが本を読んであげていた小さな女の子。ついに来たインド独立の日は、父の臨終の日となった。街では宗教対立の暴動が起こり火が放たれる。穏やかだった街の日常の崩壊が、父の死という個人的な日常の崩壊と重ねられるようにして進んでいく。だが、ビラルに手を差し伸べてくれる友達や学校の先生、医師、そして兄も自分なりの正義を信じながら助けようとしてくれる。作者はパキスタン人の母とインド人の父間に英国で生まれた。この本の救いは最後に60年後が語られること。今なお、インドとパキスタンの間の問題は無くなっていないとしても、対立を超えたいという願いもまた続いているといえるだろう。