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草原の子マレディ

 

草原の子マレディ (岩波少年文庫 (3124))

草原の子マレディ (岩波少年文庫 (3124))

 

 アパルトヘイト下の南アフリカでの一人の男の子の成長物語。父が出稼ぎに行った後帰らず、よその家の牛の世話をする仕事をしなければならない暮らしをしている。そのため学校に行けない。周りより優秀だと自負しながらも、実際には進級もできない焦りと憤り、伝統的な暮らしをする人々への畏敬、父への憧れなどが描かれているが、あえて背景が描かれていない感じもあり、日本の中学生が読むとちょっとわかりにくいのではないかと思う。また、個人的には「男」が強く意識されている感じがした。社会の抑圧に抵抗するのが男の誇りで、その誇りが打ち砕かれてしまった、という雰囲気があり、それが間違っているわけではないが、時代ゆえかちょっと過剰な感じがした。女性にも誇りがあると思うが、その論理の下ではこの問題はどう描かれるのだろう。だが主人公マレディは、気の毒な環境にいるといえるが、可愛げがなく怒りを抱えている。そして実際に父親に出会った後、あんなにあこがれていたのに、実際はあまりうれしくない自分を見つけている。このリアリティは貴重であると感じた。