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ポプラの秋

 

ポプラの秋 (新潮文庫)

ポプラの秋 (新潮文庫)

 

父を失い母と一緒に小さなアパートに引っ越した7歳の「私」。子連れに難色を示したという大家のおばあさんは、見た目も怖そうで「私」はビクビクしていた。「私」は突然の父の死のように不幸が襲いそうな予感で過敏になり、戸締りを何度も確認したり、忘れ物を絶対しないようにとピリピリしたあげくついに倒れて発熱。仕事を何日も休めない母の代わりに怖い大家さんのところで面倒をみてもらうことになった。意地悪くはないが、常にマイペースのおばあさんのようすにむしろホッとした「私」に、おばあさんは死者に手紙を出すことができる、という思いがけない話を持ちかける。自分が死ぬときに手紙を運ぶことができる、実は自分も届けてもらったことがあるというのだ。「私」はおとうさんに手紙を届けてもらおうと思いつく。同じアパートにいるちょっと芸術家気質の女性佐々木さん、さえないタクシー運転手西岡さん、その息子で離婚した母親のところから休みに遊びに来る物静かなオサムくん。臆病で、まじめで、思い詰めるタイプの女の子がまわりの人たちとの交流の中で徐々に父親を失った混乱から抜け出していく。この物語はすでに大人になった私がおばあさんの死を知らされることから始まり、子ども時代を回想しつつ葬儀に参列する枠物語となっている。大人の「私」も大きな問題を抱えていて死を意識している。だが、葬儀で父親の死の真相と母親の思い、そしておばあさんが多くの人に手を差し伸べていた事実を知ることで再生する。思うに、児童文学は成長の物語だが、成長とは一度ではない。困難は一度克服しても、また別の穴に落ちることもある。だが、何度でもやり直すのが生きることかもしれない。